第40話

 まずは塩を少し抜いて……。

「……固いお肉を少しでも柔らかくする方法はないでしょうか?」

 パイナップルの酵素か何かで柔らかくなるという話は聞いたことがありますが……。

 駄菓子の粉ジュースのパイナップル味じゃぁ、駄目ですよね、きっと。

「ひき肉にしましょうか?」

 それが一番柔らかく食べられるはずです。ひき肉にして丸めて焼きますか?

 ハンバーグとか作るのは無理ですよね……。

 臭みは塩水で少しはとれているといいのですが……。

 何か駄菓子でなんちゃってピザのように、なんちゃってハンバーグを作る方法はないでしょうか。

 ハンバーグに必要なものは、玉ねぎとパン粉とつなぎになる卵とか塩コショウなどの味付け……。

「たまねぎ……うまいんだ棒にたまねぎ味はありませんでしたよね……オニオン味という名前もなかったはずですし……。あ、そういえば……キャベツの太郎丸とかたまねぎの太郎丸とかいう駄菓子がありませんでしたでしょうか?10円では売ってなかったでしょうか……」

 ぽんっと、キャベツの太郎丸と、たまねぎの太郎丸が現れました。

「ふおう、出てきました!」

 すごいです。これが10円ですか?いえ、今は値上がりしているかもしれません。昔、10円で買って食べていたのですね……。

 昔の私、いつも同じものばかり買う少女じゃなくて、いろいろなものを食べてみる少女でよかったです!

「えーっと、肉をひき肉にします」

 武器屋で安く買った欠けた短剣。細かく肉を刻みます。

 それから、たまねぎとパン粉の代わりはたまねぎの太郎丸です。袋の上から荒くつぶして、肉と混ぜます。

 ちょっと考えてから、おやつのチーズも出して、小さくして混ぜることにしました。

 チーズハンバーグです。肉が少し臭くてもチーズの風味でごまかされないかな?なんて思いまして……。

 たまねぎの太郎丸がつなぎの役目も果たしてくれる……?

 なんか、ちゃんと見た目はハンバーグっぽくなりましたよ?これを手の平に叩きつけるように空気を抜きながら形を整えていきます。

「何してるの?泥団子遊び?」

 ふえ?

 空気を抜く作業は手の平と手の平で肉を放り投げて行き来させるものです。うっかり落としては駄目だと、ハンバーグ作りに集中していたため、人が近づいてきていたのに気が付きませんでした。

 作業の手を止めて振り返ると、10歳前後の男の子がいました。

「おいらもやっていい?」

 男の子がフライパンの中にあるハンバーグの種を見て言いました。

「えーっと、泥団子じゃなくて、これは食べ物なの。だから、落としたりしちゃダメだよ?土がついちゃうと食べられないからね?」

 私の言葉に、男の子が目をまん丸にした。

「泥団子じゃなくて、食べ物?これ食べられるの?すげー。さすが泥団子のお兄ちゃんだ!」

「はい?泥団子のお兄ちゃん?」

 何でしょう?泥団子……。

 あ、そういえば、すんごく綺麗な顔をした男の人にチィロールチョコを見せた時に泥団子と言われましたけれどそれをこの子も見ていたのかな?

「私の名前はリツだよ」

 お兄ちゃんと言われたことは否定しません。グレイルさんにも、女だということはあまり知られない方が安全だと言われましたし。

「おいらはミック」

「ミック君、やってみる?こうしてね、丸くしながら、中に入った空気を抜くように、手の平に叩きつけて」

 右手から左手、左手から右手にぱんぱんぱんぱんと移動させて空気を抜く。

「おっもしろそう!やるやる!」

 遊びじゃなくて料理だけど……。10歳くらいの子供にとったら料理も遊びみたいなもので、楽しいよね。クッキーを作ったり、餃子を作ったり。ハンバーグもこねたり形を作ったりは楽しい。

 ミック君がフライパンの中のハンバーグの種に手を伸ばします。

 ぐにゅんと握りつぶして指の間から種が飛び出します。

「うわっ。思ったより柔らかい、え?これで形作るの?」

 初めての感触なのか、ミック君がびっくりして目をまん丸にしていました。

「ゆっくり手にならしながらね」

 ミック君がおっかなびっくりハンバーグの形を作っています。

 ……ハンバーグモドキですけどね。

 燻製を作っている隣で少し火を大きくして、フライパンを温めます。

「うわ、火とフライパン?もしかして料理するのか?」

 あれ?

 さっき、食べ物だと言いませんでしたか?

「すげーな、リツ。料理って、教会でも一部の有能な神官しかできねぇのに、リツはできるんだ」

 ん?

「ミック君は詳しいね。それとも神官の一部しか料理できないというのは常識?」

 ミック君がしまったと言う様子で口を押えました。

 あれ?

「きょ……教会で、麦を育てる手伝いをしてるから……」

「教会では麦を育てているの?畑があるのね?本物の畑が!」

 畑と言われて街の外へ見にいったら、魔物畑だったのを思い出しました。ちゃんと麦とかの畑もあると聞いてほっとします。

 そりゃそうですよね。祝福用のパンを作るための材料は本物じゃないといけないのですから。

「あー、うん」

「お手伝いして偉いね」

 10歳くらいかな。この世界だと普通に働く年齢なのかな?日本でも昔は6歳とか7歳とかから奉公に出ていたと言うし……。10歳ともなれば労働力ということになるのかもしれません。

「おいら、親がいないから。教会の手伝いすりゃご飯食べられるからな。偉くなんかないよ。ご飯のためにやってるだけだからな」

 うっ。

 親がいない……。

 だから、働いてご飯を食べるのは当たり前……。

 ううん、偉いよ。立派です。

 家の手伝いとかそういうレベルの手伝いじゃなありませんでした。。ちゃんと働いてます。仕事です。

 風呂掃除とかお手伝いして偉いねっていう調子で言葉を口にした自分が恥ずかしいです。

「おいらさ、街の外にいたから知らなかったんだけど、街だと親のない子は5歳から魔石畑で収穫の手伝いしてるんだ。おいらは緑の手だから教会で手伝ってるけど、おいら以外もみんな手伝いはしてるぞ」

 緑の手って何でしょう?

 孤児はみんな魔石畑でお手伝いをして食べるものには困らない生活はさせてもらえるってことですね。

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