第39話

 はい。ちゃんと料理に砂糖代わりにつかいましたよ。あの時は何に使ったのでしょう。さすがにそこまでは覚えていません。

 袋から出して手の平に乗せ、ミニ馬さんに差し出します。

 はわわっ!

 大きな口がカパッと開きました。

 鋭い歯が見え、思わず体を縮めます。

 ミニ馬さんはそのまま私にかみつくこともなく口を開いたままこちらに向けています。それから、よだれがたらーっと口から垂れました。

「あ、もしかして口に入れてほしいの?そうですね、小さくて食べにくいですものね」

 金平糖の粒をひとつづつ唇の先でつまんで食べるのは確かに大変そうです。

 口の中にざらざらと金平糖をいれてあげました。

 キュイキュイ。

 かわいい超音波が頭の中に響きます。

 嬉しそうです。

 一度に飲み込まず舐めて溶かすように味わっているのかな。しばらく幸せそうに尻尾を揺らしながら顔もゆっくり揺らしていました。

 食べ終わったのかな?

 キュイっとミニ馬さんがかわいく頭を傾げます。

「えーっと、まだ欲しいの?」

 キュイッ。

 どうしよう。ミニ馬さんは命の恩人ですし、いえ、恩馬ですし、お礼はしたいです。金平糖を出すには米粒魔石……スライムから取れる魔石があればいいので、何も問題はないのですが……。金平糖……魔石の効果しかないでしょうか。もし、金平糖の栄養素が影響するとしたら……。砂糖はとりすぎるとダメだと思うんです。

 ……大丈夫でしょうか?

 いえ、大丈夫かどうか分からないのに、命の恩馬さんを糖尿病にしたり虫歯にしたり肥満にしては大変です。

「あの、もっとたくさんあげたいのですが、一度にたくさんたべるのはよくないのです……って、分かりますか?」

 キュイッ。と、ちょっと悲しそうな色を目に浮かべて大きく頷きました。

 話が通じてますね、絶対。

「あの、約束は守れますか?一度にたくさん食べすぎず、ちょっとずつ食べることができますか?」

 キュイッと、凛々しい顔でミニ馬さんが頷きました。

 信用できます。と、なぜか確信しちゃいました。

 グレイルさんに初めにもらった巾着袋の中身を、さっき受け取った巾着袋の中に入れます。……さっきのは指輪を投げてよこすために、指輪だけでは紛失するだろうからと魔石入りの巾着袋に入れたのであって、魔石をくれたわけではないとは思うのですが……今度会った時に混ぜちゃったことを謝って返しましょう。

 米粒魔石で金平糖を出して袋を破いて巾着袋に入れていきます。

「えっと、これで、1か月分くらいかな?」

 巾着袋に半分くらい入れたところで手を止めます。これ以上入れると巾着袋を閉めたり開けたりしたときに落としそうです。

「上手に開け閉めできる?無理かな……何か蓋つきの器とかがあったほうが……」

 他に入れ物になりそうなものは持っていなかったかと考えたけれど……思いつかない。

 すると、ミニ馬ちゃんは、巾着を口にくわえて、紐をその辺の木の枝にひっかけた。そうして、舌を使って上手に口を少し開いて舌でいくつか金平糖を取り出した。それを戻してから、今度は紐を引っ張って口を占めると巾着袋を枝から外して自分の背中にむけてぽんっと投げました。

 うわぁー。

「すごいです。器用です。これなら大丈夫ですね……」

 にこっと笑うと、ミニ馬さんもにこりとわらって……笑ったような顔をして、ほほをすりすりと私のほっぺたに摺り寄せました。

 か、かわいい!

 思わず首に手を伸ばしてぎゅうーッとしてしまいました。

 キュイーーーーーンッ。

 ひと際高いと思うような音が頭に響きます。

「あ、ごめんなさいっ」

 抗議の声かと思って慌てて手を放すと、キュイキュイと体を寄せてくるので、どうやら抗議ではなかったみたいです。では、遠慮なく……。

 ぎゅぅ。

 もふもふ。

「助けてくれてありがとう。また会えたら金平糖あげるね……」

 キュイ。

「また会えるといいね」

 キュイ!

「私はリツ。覚えていてくれると嬉しいな……」

 リツ。

 ん?

「え?今、キュイじゃなくて、私の名前呼んでくれた?」

 キュイ。

 あ、戻りました。気のせいだったんでしょうか……。

「じゃぁ、そろそろ戻るね……って、あれ?道はどっちだったんだろう。迷子でした……」

 きょろきょろとしていると、ミニ馬さんが鼻先で行く方向を教えてくれました。

「ありがとう。じゃぁね!」

 手を振ってミニ馬さんと別れ、森の中を進む。

 リツ。

 ん?

 またミニ馬さんが名前を呼んでくれた気がします。振り返ると、もうミニ馬さんの姿はありませんでした。

 視界に入ったのはミニ馬さんが倒したゾンビライオンの亡骸です。

 ……そうそう、この世界はゲームのように倒したモンスターが光となって消えるようなことはなかったんですよね……。


 無事に、道に出てこられました!

 フライパンなどの荷物の置いてある場所から少しずれていますが、誤差の範囲です。

 ……もしかして、火を消さずに燃やしたままなら、煙の位置で迷子になることもなかったかもしれません。次からは火事にならないように気を付けて煙は上げておこうと思います。念のための備えは大事です。米粒魔石……取ったけれど金平糖にした分を差し引きするとほとんど増えてないです……。でもいいんです。ミニ馬さんかわいかったです。

 もふもふさせてもらえて、癒されました。ふへへ。

 塩水に漬けていたお肉を引き上げます。一つは食べて、あと2つは干し肉……。

 干し肉の作り方は、直射日光に当たらないように風通しの良いところに干す……んですよね。

 生肉を干すだけ……不安しかありません。

「燻製肉にしましょう……」

 そうしましょう。食べてお腹を壊しては大問題です。

 肉2枚を薄切りにしてなんか適当な石や木で簡単な煙を逃がさない囲いを作って、いぶします。

 キャンプで燻製チーズとか燻製ソーセージとか友人が作ってくれたことを思い出しながら作業したら何とかなりました。……いえ、見た目は何とかなっています。あとは食べるときにうまくできているかどうか分かりますね……。

 冷燻法とか低温でいぶすのはあれなので、高温で……なので、細かいことは大丈夫ですよね……?

 時間がかかりますので、その間に肉を調理しようと思います。

 なんだかんだと、結構長い時間米粒魔石拾いをしましたので、出来上がる頃にはお腹も空きそうです。

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