第22話

「すでに火がしっかり通っているから、もういいだろう。ほら、食え」

 グレイルさんが私の短剣を見つけると、木の棒で肉を抑えながら肉を一口サイズに切って、木にさして手渡してくれました。

「ありがとうございます。いただきます」

 久しぶりの、サラミ以外の肉。

ごくりと唾を飲み込んでから、肉を口に入れます。

「……う」

 臭い。

 肉の臭みがダイレクトに伝わってきます。

 高いお肉ではないから塩だけでは何ともならなかったみたいです。

 胡椒、胡椒をください!

 生姜、生姜でもいいです!

 にんにく、にんにくが私には必要です。

 料理酒、料理酒で臭みとりを!

 ……贅沢を言ってはダメなのは分かるのです。

 ですが、肉の臭み……なんというか、魚の生臭さとは違い、獣臭さというのは、そのまま生き物の生々しさを感じて……。

 結構なダメージがあります。

 ……久しぶりの肉なのですから、ありがたく頂かないと……。

 頑張って咀嚼……いいえ、何回かかんだだけで、飲み込みます。味わいたくはないのです。

「ほら、そんなに慌てなくても肉はなくならないぞ。もっと落ち着いて食え」

 いえ、ごめんなさい。口の中にずっと置いておくのは臭くて……。

 何も慌ててがっついているわけではないんです。ううう。

 グレイルさんは世話焼きさんなのでしょうが。私の手から棒を奪うと再び肉を突き刺して私に差し出してきました。

 せっかくなのです。

 頑張ってもう一切れ肉を口に入れます。うう、獣臭いです。

 いったいこれは何の肉なのでしょうか。か、考えちゃだめです。考えちゃだめです。

 かみかみ……ごくんっ。うおぇっ。

 グレイルさんが再び肉を差し出してきました。

 ごめんなさ……い。

「あの、もう、食べられないで……す」

 まずくてとはさすがに言えなくて目が泳ぎます。

「ああ、そういえば何か食べた後だったな。お腹がいっぱいか?」

 そ、そうです。嘘ではないです。もしかしたら空腹だったら、いくら生臭いとはいえ食べられたと思うのです。

 思いっきり首を縦に振ります。

「そうか……もっと食わないと大きくなれないぞ……まぁ、俺は食っても細いままだがな……」

 横にどっしりした体系になりたいのでしょうか。グレイルさんは今が、完璧な素敵体型ですよっ!

 そして、私も年齢的に身長は伸びないので、大きくなるとしたら横……。ううう。痩せにくいお年頃に差し掛かりつつあるので、遠慮したいです。

 いえ、でも日本に住んでいた時に比べて体をすごく動かしているので大丈夫でしょうか?

 どうする?残りの肉は夜にでも食べるか?夜までに腐ることはないと思うが……。

 うーんと考えます。

 これを夜にまた食べるのか……と。贅沢を言えるような立場でもなければ、状況でもないのは分かるのです。

 ……。

「あの、一つ質問したいことがあるのですが……」

「なんだ?」

「肉は、この世界の人は普通に食べているんですか?その、下層階級の人たちは何を食べて生きているのですか?」

 味ではなく栄養面を考えれば、肉は食べないとダメだと思うんです。たんぱく質が不足しちゃいます。ビタミンBもお肉には……って豚肉でしたっけ。とにかく、いろいろなものを食べないと栄養が偏って駄目だと思うんですよ……。

「ん?ああ、確かに、下層階級の者たちは本物として食べたことがあるものは祝福で与えられるのはパンと肉になる。が、実際はパンはこのサイズの魔石で出せるが、肉はこのサイズの魔石が必要になるからな……。年に何度かしか肉が食べられない者も多い」

 魔石のサイズ的に食べるか食べないか?!

 ん?んん?

 下層階級の者たちは、一年中ほぼパンだけ?

「あの、ほぼパンだけですか?それで大丈夫なのですか?」

 栄養面は?

「大丈夫とは?」

 グレイルさんが首をかしげてしまった。

 え?だから、栄養面。栄養のバランス……。パンだけって、いえ、パンってあれがパンだとするとほぼ小麦粉だけですよね。色が白くなかったから全粒粉だったのかな。全粒粉だから多少は栄養が取れるのかもしれませんが……。

「その、病気になったりとか……」

 グレイルさんが笑った。

「大丈夫、複製食品は安全なものしかないからな。本物の方がよほど危険だ。毒を口にしてしまったり、おなかを壊したり腐っていたりと危険なものもあが……」

 グレイルさんがぽんぽんと私の頭を軽く叩きました。

 ……えーっと、もしかして、複製のパンだけ食べてても栄養面が偏ることはないってことでしょうか?

 もとが魔石なので、魔石の持っている栄養かなにか?が作用するっていうことですかね?

 ファンタジーで病気や怪我を治す不思議アイテムといえばポーションやエリクサーなどがありますが、そういった類の魔石は不思議アイテム?

 一方で、魔石で作られない本物の食べ物は、栄養バランスなどを考えないと体調を崩してしまいます。よく知らないで食べて毒だったりすることもあるでしょう。

 知っていても毒である水仙の葉をニラと間違えて食べてしまい食中毒を起こす事件が年に何件かあるくらいです。

 はちみつも、1歳未満の子供には命に係わる危険な食べ物だったりしますし……。

 ジャガイモだって、青くなったものは毒の塊です。

 杏仁豆腐に使われていた杏子も、現代日本では薬事法で管理され食材として使うことを禁止されているくらい危険なのですし……。

 食べられると知っているものも、食べ方を知らなければ大変なことになります。

 お腹を壊したり吐いたりするくらいならまだしも、幻覚を見る、神経がマヒする……そして最悪は死に至る……そんな危険を冒すくらいなら魔石から出した安全な複製品を食べた方が確かによさそうです。

「リツも、いくらお腹が空いたからと言っても、もう無理して変なものを食べなくていいからな……(腐った豆を毎日のように食べていたというのは、好んで食べていたわけではあるまい。それしかなかったのか、はたまた無理やり食べさせられていたのか……。粘土の塊よりは豆なだけましなのか?)」

 無理して変なもの?

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