第21話

「パンに何を塗ったんだ?」

「え……?えーっと」

 兵士さんから視線をそらします。

 ピザは、多分ないのでしょう。この見た目でピザって単語が出てこないのですから。

 ピザソースモドキを塗ったのですが、ピザソースも分からないですよね?

 うまいんだ棒ビザ味を水で溶いたなんて説明はもっと分からないですよね……。えーっと、なんと説明すれば……。

「い、いや、すまん。答えを強要するわけじゃない。言いにくいのであれば無理に言う必要はない……」

 あ、はい。説明難しいというのを察してくれたみたいです。

 やっぱり兵士さんは親切ですし優しいです。

 兵士さんががさがさとポケットをあさりだしました。そのすきにあまり時間がたつと固くなってしまうので残りのピザを食べます。

 フライパンにお水を……出したいのですが、火を使っている近くでは危険なのです。

 なんせ10円分の水道水……大量なので。火が消えてしまいます。もちろん火を始末するときには問題ないのですが、火を消す前に炭をまた取っておかないといけません。水にぬらしてしまっては火おこしが困ります。

「少年、これを食べなさい」

 は?

 少年?

 あー。うん、やっぱり少年に見えますか。

 これを食べろって?

 と、手を出すと手のひらにパラパラと白い粉……白い粉粒が落とされました。

「あの、リツです。名前、リツです」

 少年じゃないと否定するのも女ですって主張してるみたいで、顔を見たとたんにイケメンを前に色気づいたみたいで言いにくく。

 かといって、少年と呼ばれ続けると嘘をつき続けているみたいで心苦しいので名乗ってみました。

「あ?リツか。俺はグレイルだ」

 ほう、兵士さんの名前はグレイルさんと言うのですね。……苗字とか私も名乗りませんでしたが、兵士さんも名乗らないのか、苗字がない世界なのか。はたまたフルネームを知られると隷属魔法が発令しちゃうとかいう恐ろしい世界なのか。あとは、苗字持ちは貴族というパターンもありましたかね。いろいろなことが頭をよぎります。

「あの、グレイルさん、この白い粉……は、なんでしょう?」

「……そうか……知らないか……」

 知らないかって、だって、無臭の白い粉粒……。

 塩?グラニュー糖?味の素?唐突に手のひらに出されても、分からないですよ。

「なめてみろ」

 はい。舐めれば分かるっていうことですね。およそ私の手のひらに出された白い粉は、一つまみほど。

 口に含みます。

「!!」

 絶句。

「それはな、塩というんだ」

 知ってます、先に言ってくださぁぁい!

 しょっぱい!塩一つまみ、最近塩分あまりとってなかった私の口には、しょっぱすぎますっ!

 ぺっぺと吐き出すわけにもいかず、水もなく、そのまま必死に飲み込みます。

「本物の塩だ」

 いや、本物の塩以外に塩ってあるんです?……って、あ!

 魔石で出す複製塩じゃなくて、本物の塩っていうことですね。そうでした、ここはそういう世界。

「あの、グレイルさん、どうして、私に本物の塩を?」

 塩は食べたことがありますよ。ただ、バラバラで出すことができないので、一袋……98円でしょうかね。私が買ったことのある一番安い塩って……。それとも、もっと高かったでしょうか……。

「試しに塩を出してみろ。出せるようになったはずだ」

 と、グレイルさんがパンを出すのと同じサイズの魔石を私の手の平に乗せました。

 いや、無理ですって。

「あの、グレイルさん、このサイズでどれくらいの塩が出ますか?」

「ん?そうだなぁ、これくらいか?」

 グレイルさんが親指と人差し指を輪にしました。うーん、大匙1?球体で表現しているなら大匙3くらい?

 日本で粗塩なら500gとかかなりたくさん出るのですが……この世界では塩は日本より貴重ということでしょうか。海が遠い地域なのですかね?

「そんなに塩使いませんけれど……」

 今出しても、塩の使いみちはないので。米粒魔石を一つ取り出して手の平に乗せました。

「塩」

 出るか少々不安だったものの、ちょうど一つまみくらいの塩が出ました!

「出ました!出ました、塩が、出ました!」

 思わず嬉しくなって大騒ぎしてしまいました。満面の笑みでグレイルさんの顔を見ます。

「あ……うん、そうだな。確かに、塩だ」

 グレイルさんが少々戸惑った顔をしました。

 塩があれば、そうとう料理の幅が広がると思います。いえ、料理……になるかはわかりませんが。例えばトマトがあれば、塩をかければとても美味しくいただけます。塩トマト。

 白飯だって、塩さえあれば立派な握り飯が作れます。ああ、お米が食べたいです。

「あー、せっかくだ。使ってみるか」

 グレイルさんが、親指の爪サイズの魔石を取り出し、火にかけっぱなしになていたフライパンのふたに置きました。

 魔石焼き?斬新です。もしかしてカルメラ見たいに膨らんだりするんでしょうか?だったら楽しそうです。

 昔屋台で見たカルメラ……カルメラ焼きを思い出しました。

「肉」

 グレイルさんが呪文を唱えると、フライパンのふたに置いた魔石が肉に変わりました。

 ……ああ、魔石焼きなんてなかったんですね……。じゅぅーっと音をたてて、焼いた肉がさらに焼かれています。

 焼きすぎたら固くなりませんかね?焼いた肉をさらに焼く必要はあるんでしょうか?温め直すという感じなのでしょうか?

 そういえば、前は手のひらに焼いた肉を出していましたし、熱いまま出てきたら確かに困りますね。やけどしちゃいそうです。

 なんてぼんやりと考えていたら、グレイルさんが私の手の平の塩をつまんで肉にふりかけた。

「肉に塩を振るとうまいぞ」

 ……えーっと、何の肉なんでしょうか?見た感じ牛に近いですよね?焼き鳥は塩だけでも美味しいイメージはありますが、牛肉はブラックペッパーとか他に何か欲しい気がします。

 ああでも、高い牛肉は塩だけでもとても美味しいと聞いたこともあります……。

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