第11話

 恵んでもらおうとは思ってないのですが、ちょっと呪文を唱えてくれるくらいならしてくれるかも……と、思って……。というのは甘えた考えでしたでしょうか?

 対価が必要で、その対価を払えるならちゃんと払うつもりです。払えない……例えばお金が必要なら仕事とか紹介してもらえないか尋ねるつもりですし……。

「なるほど。パンを食べるために教会に来たのか。祝福を受けに来たというのだな?それならあちらの列だ。神は誰にでも分け隔てなく祝福を与えてくださる」

 お兄さんが、子連れの人たちが並んでいる行列を指さしました。

 祝福を受けに?いえ、パンが食べたいと言いましたけど。

「あの、祝福って何ですか?」

 もしかしたら、パンを配ってくれる、配給や炊き出しみたいなものを神の恵みとか祝福とか言うのかもしれません。

 指示された列に並んでいる人たちが子供連ればかりだとすると、子供食堂みたいな救済でしょうか?

 私の場合は、魔石は兵士さんから貰って持っているので、パンではなく一言呪文を唱えてもらえればよいのですが……。

「君は、本気で言っているのか?3歳の子でも知っていることを知らないというのは、どういうことなのか、分らぬ」

 うっ。

「あの……」

 異世界から召喚されたのでこちらの常識はまるっきり知らないんです……。

 これは言っても大丈夫な情報なのでしょうか。それとも、言うとトラブルが発生してよろしくない情報なのでしょうか。判断がつかないので、黙っていることにします。余計なトラブルは避けたいところです。

 ですが、そうすると……3歳でも知っていることを知らないのをどう言い訳すれば……。

「疑問だ……君は見たところ10歳はとうに過ぎているようだし、その見た目で3歳ということはないだろう」

 はい。そうです。20歳も過ぎています。大人ですよ、お、と、な!

 知識は3歳以下ですが……お、大人ですっ。

「それなのにパンが食べられないということは……祝福から遠ざけて育てられたのか?だとしたら知らないというのも分からなくはない。なるほど」

 超絶美人なお兄さんが言い訳をどうしようか考えていた私を置き去りに、勝手に解釈を始めています。

 祝福から遠ざけて育てる?教会は神様関連の施設だから、無神論者の親にってことかな。

 日本だと多くの人は、結婚式は教会、初詣は神社、葬式はお寺みたいな信じてようが信じてなかろうがなんでも受け入れちゃいます。けれどそうじゃない、がちがちの仏教徒とかクリスチャンとかいますよね。

 ああ、海外だと、プロテスタントとカトリックとでは結婚を許されないから改宗しないといけないとかいう問題が起こることもあるときいたことがあります。

「祝福というのは、本物のパンと肉を食べて、神様より祝福として魔石から複製をつくれる魔法を得ることだ」

 ん?

 祝福で魔法を得る?一度でも本物を食べたことがあれば自動的に出せるようになるんじゃないのでしょうか?

 私は祝福を受けたことはないんですけれど……。

「えーっと、本物のパンも肉も食べたことがあるんですけど、出すことができないんです」

 お兄さんが表情を歪ませました。

 うひゃっ。綺麗な顔がゆがむと迫力満点です。こわもての人よりもある意味怖いです。

「ありえない。それは本物を語った複製のパンや肉だったということはないのか?いったいどこの誰に騙されたのだ。お金を払ったりしていないだろうね?教会でなら基本的な祝福はどこの誰でも無料で受けることができる。来なさい、神は等しく皆に祝福を与えてくださる」

 お兄さんが私の腕をつかみました。

「あの、だ、騙されているわけではないのです、怒ってくださってありがとうございます、その……ま、魔力が、魔力が足りなくて」

 レベルが低いのが原因だと思うんですよね。

「魔力が足りない?いったいどんな立派なパンを出そうというのだ?」

 ポケットから小指の爪サイズの兵士さんから貰った魔石を取り出して手の平に載せます。

「それは、どの教会でも基本で受けられる祝福でパンが出せる大きさの魔石……魔力が足りない?そんなことがあるのか?信じられないことだ。わからぬ。どういうことだ」

 お兄さんが首をかしげました。

「そのサイズの魔石で食べものを複製するには、早ければ7歳前後、遅くても10歳にもなればできるようになるだろう。毎日魔石から作られた食べ物を食べていれば自然とレベルが上がっていくはずだが……見た目はとうに10歳は過ぎているように見えるが、やはり3歳なのか?」

 いえ、だから、大人です、大人!20歳も過ぎてますっ。知識量は3歳でも大人です。

 それよりも、大変な事実を聞かされました。なんと、言いましたか?

「毎日、魔石から作られた食べ物を食べると……?早くて7歳……というのは、その、生まれてから毎日魔石を体に取り入れて、パンが出せるようになるまで魔力が上がるのにはコツコツと食べ続けるということ……ですよね?」

 私、この世界にくるまで魔石を食べていませんでした……だから、レベル1。米粒サイズ、10円は初期値なんですかね。最低レベルが1円じゃなくて良かったんですけど。

 でも、パンはレベルいくつなのか分かりませんが……。7年毎日魔石を食べてやっとっていうことですか……。

 最短でも、パンが出せるまでに7年かかると言うことでしょうか……。

「他に方法はないのでしょうか?魔力を上げる、大きな魔石から食べものにできるようにもっと早くなれるようになる方法は……」

 うまいんだ棒生活を7年続ける自信は流石にありません……。

「そうだね、子供よりも大人の方がたくさん食べられるだろうから、もう少し早いだろう。大きな魔石を食べることでも早く魔力が上がるはずだ」

 ……詰みました。

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