第10話

 神官さん?が私を頭の先から足の先までじっくりと見ました。

「なるほど。噂を聞いて神官皇様の作り出した本物の料理を食べに来たのか?今日の料理は柔らかい鳥の肉を特別な香りをつけた塩で焼いたものだ」

 ハーブ鶏でしょうか。美味しそうです。家で作る時はマジック塩とかクレイジー塩とか色々なハーブを混ぜた商品を鶏のもも肉にすりこんでアルミホイルで包んで魚焼きグリルで蒸し焼きにしていました。きっと、それよりも本格的なレストランで食べるような美味しいお肉なんでしょう。

「金貨10枚だ」

 金貨10枚?

「あ、えっと……」

 金貨10枚ってどれくらいの価値なんでしょう……。

 なんだかとっても高そうですよ。金貨なんて。だいたいファンタジー世界だと金貨1枚安くても1万、10万とか100万の設定の時もありますよね。ちなみに日本だと10万円金貨とか作られたりしてたからだいたい金貨1枚10万円と考えると……。

 金貨10枚って、100万円……。100万円のハーブ鶏……?

「高っ」

 懐石料理で10万円のコースなら、まだ想像が出来なくもないのですが、高いお酒とかそういうものでなく鶏料理1つが100万は想像を絶します。

「高いだと?」

 神官さんの目つきが鋭くなり、私を睨みつけました。

「教会を批判するつもりか?」

「いえ、その、違うんです、か、買物とかもしたことが無くて……物の値段が分からず……」

「なるほど、世間知らずの子供か。教えてやろう。自分の町にもどって、食べた料理を銀貨10枚で100人に売ればすぐに金貨10枚は帰ってくる。すぐ元がとれて、あとは儲けるばかりだ」

 銀貨10枚で100人分が金貨10枚ということは、銀貨100枚で金貨1枚なのですね……。元が取れる?材料費は?

 ……といっても、魔石だけあればいいのですから、肉とか必要ありませんし、光熱費も人件費も必要ないですね……。それは確かに便利ですけれど。

「この料理を出すための魔石はどれくらいの大きさのものが必要なのですか?その魔石はいくらになりますか?」

 材料費として魔石は必要になるでしょう。大きければきっと高いと思うんです。そして、高い料理には大きな魔石が必要です。しかも……。

「魔力が足りずに魔石を料理にできないとかはありませんか?」

 私の場合は米粒魔石しか料理にできません。他の人は、金貨10枚出して食べた料理をちゃんと出せるだけの魔力を持っているのでしょうか?

 素朴な疑問を口にすると、神官さんが顔を赤らめて怒鳴りました。

「やはり教会を批判する異教徒か!すぐに立ち去れ!お前のような者が、神官皇様がいらっしゃる教会に近づかせるわけにはいかぬっ!」

 ぶんぶんと大きく手を振り回して、追いやる仕草をする神官さんに、慌てて距離を取ります。

 批判?何も批判なんてしていません……。

 振り返りながら前も見ずに受付から小走りで去ります。

 どしんっ。

「はにゃぁっ」

 前を見ていなかったので、人にぶつかってしまいました。車がない世界だからって油断をしちゃいけません。

「すいませんでした……!」

 慌てて前を向き、ぶつかった人に頭を下げる。

「問題ない」

 え?

 この声……。

「兄さんっ!」

 従姉弟の雄一郎お兄さんの声に顔を上げます。

「あ……」

 薄茶色のマント姿の男性の姿が目に飛び込んできました。フードを頭からかぶっていて顔は見にくい状態なのですが、ちょうど真下から見上げる形になっていたためしっかり顔を確認できました。

 恐ろしく整った顔をした20代後半に見える男性です。

 薄い水色の瞳と色素の薄い髪をしています。まるで雪のように解けて消えてしまいそうな繊細な美しさを持った男性。女性よりも美しい……エルフってこんな感じ?もしかしたら本当にエルフかもしれません。

 あいにくフードで耳が尖っているかどうか確認することはできないのですが、エルフという単語に胸はドキドキです。

 ……ええ、もちろん、雄一郎お兄さんはエルフじゃないです。つまり……。

「私には弟はいなかったと記憶しているが。なぜ、君は私を兄さんと呼ぶのか教えてくれないか」

 はい。声はそっくりなのですが、全くの人違いです。

 って、弟?え?妹ではなくて?

「重ね重ねすいません。あの、声が……知り合いに似ていたので……その……」

 ぺこりとお辞儀をして謝罪します。

「なるほど理解した。謝罪の姿勢も悪くない、無礼というわけでもないようだが、何を神官ともめていた?」

 ん?無礼?ああ、私が失礼な人間で神官さんを怒らせてしまったのかと思ったのでしょうか。

「私があまりにも無知で、知らないことばかりだったので……変な質問をして……その、批判していると言われてしまいました」

 目の前の男性は、ふぅーんと私の顔を見ます。

「なるほど。昔から本物の料理を食べられない人たちが教会を非難することはあったが、最近特に増えてきた。神官も警戒を強めているのだ。過剰に反応したかもしれぬ」

 そっか。神官さんもクレーム処理とかしなければいけないなら大変ですよね。ちょっとピリピリして感じが悪いなぁと思う態度も仕方がないのでしょう。クレームには毅然とした態度を取った方がいいでしょうし。

 ……クレーマーと思われてしまったのですね。言葉には気をつけなければいけません。確かに高いと口にしたのはうかつでした。この世界の相場も知らないのに……。適正価格を高いと言われればそれはクレームにしか聞こえませんよね。

 相場……ちゃんと勉強しないといけません。

「それで、何のために教会に来たか教えてほしい」

「パンが食べたかったんです」

 そうそう、困ったら教会に行けと言われたのでした。

 教会でしたよね?ギルドではなく?兵士さんに教えてもらったんです。

 あと、町の入り口に立っていた門番さんも教会に来たのか?言っていたし……。教会って孤児院とかもある……日本でのファンタジー世界でのイメージでは……人助けしてくれる場所で間違ってないですよね?



=========

ああああ、リツさん……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る