第12話

 大きな魔石を食べるということは、つまり、大きな魔石を食べものにする必要があるということですよね?無理です。

 私が食べているのはパンじゃなくてうまいんだ棒とかチィロールチョコレートとかです。

 魔石のサイズは、パンの10分の1しかサイズがありません……あ、でも、10個食べればとんとんでしょうか?食べた魔石のサイズ量で魔力が上がるのを早めることができるっていうことは、少ないと遅くなると……。

 今のような米粒魔石生活を続けていたら、いったいどれくらいかかることか……。

 どちらにしても、パンレベルまでとは言わなくても、米粒からごはん粒になるまでにも、何年単位でしかレベルが上がらないっていうことですよね……。

 うううう、ううううう。

 割引価格50円のおにぎりすら遠い夢。

 牛丼は死ぬまでに食べられないかもしれません……。

 いいえ、負けません。一番安く買った牛肉はたぶん100g98円とかだったはずです。

 醤油も砂糖も生姜チューブも料理酒も、特売98円で買ったことがあったはずですっ。だから、パンが出せるようになればきっと、牛丼の材料も出せるようになるはずです!

 って、それすらも10年近く先の話……。それまで牛丼の作り方を覚えていられるでしょうか……。

 醤油という名前を憶えていられるでしょうか……。

「しかし、君のその年までパンを出すだけの魔力がないとは、一体何を食べて生きてきたんだ?教えてくれ」

 うん。どうやらお兄さんは分からないこと知らないことがとても気になるようです。

 学者タイプでしょうか。だから、私が神官ともめていた理由も知りたくなったのでしょうね。

 米粒魔石を一つ取り出します。

「これは小さいな。スライムの魔石か?これではせいぜい野イチゴ1つ出すのがやっとだろう」

 野イチゴ?そう言うのがあるんですね!そして野イチゴは米粒魔石から出せるんですね!良いことを聞きました。

「チィロールチョコレート」

 基本のチィロールチョコが出てきました。

「なんだこれは?随分と細かい模様が描かれているが……これが食べ物か?」

「あの、包み紙です。食べるのは中身です」

 チィロールチョコレートの紙をめくって中のチョコレートを見せるます。

「……泥団子?」

 お兄さんが哀れむような目つきで私の顔を見ました。

 ど、泥団子……。

「あの、色は確かに……泥のようですけれど……」

 形は団子じゃないと思うんです。キューブ系ですし。いえ、キューブは立方体のことでしたっけ。あの形はなんという名前なんでしょう?直方体とも違い、少し台形っぽさがあるあれ……。と、とにかく団子じゃないですっ。

「泥団子じゃないです。美味しいんですよ?」

 チィロールチョコは決して泥じゃないと教えるつもりで、出したチョコを口に入れます。

 うん、チョコです。甘いです。美味しいんですが、今日は朝食もチィロールチョコだったので、ちょっと飽きてます。

「疑うわけではないが……無理をしているんじゃないだろうな?食べなれただけということも……」

 パンが出せずに泥を食べ続け泥が美味しいと感じる特殊技能の持ち主だと疑っています?

 私、ミミズの仲間だと思われてます?

 ……。

「あ、あの、色はいろいろあるんですよ?ほ、ほら、泥に見えないでしょう?」

 ポケットから朝出して食べ残したチィロールチョコを取り出します。

 適当につかんで取り出したものが手の平に5つほど。

 ストロベリーもあります。これはたぶんピンクですよね?

 チーズケーキはたしか黄色っぽかったはず……。ピーナッツは泥色……中にピーナッツクリームが入っています。

 抹茶は緑。ミルクは白ですね。うんうん。色とりどり。

 ミルクを一つむいて見せます。

「確かに泥色はしていない……本当に美味しいのか?気になりますね。一つ譲ってもらえるか?」

「はい、いいですよ」

 もちろん。

 一度包みを開いたけれど元に戻してミルク味のチィロールチョコをお兄さんに差し出します。

「タダと言うわけにはいかぬ。代わりにこれを」

 お兄さんがマントの下から手を出してきました。

 手には小指サイズの魔石が10個ほど握られています。パンを1個100円と仮定すると10個分で1000円です。貰いすぎです。チィロールは1個10円。……

 というか、貰いすぎたとしても、魔石は食べられません……。

 パンに出来ないのですから……。

 ちょっと泣きそうな顔をしてお兄さんの顔を見上げる。

「足りないか?」

 そうじゃないです。

「パン……」

 パンが食べたいのであって、魔石が欲しいわけでは……。

「なるほど。そうだったな……。パン」

 お兄さんは呪文を唱えて魔石をパンに変えてくれました。

「……ん?んん?これが、パンですか?」

 パン、ですか?

「なぜそんな質問をするのか教えてくれるか?パンを食べたことがあるというのは嘘だったのか?」

「あの、私が食べたことのあるパンとはその……ちょっと違いましたので……驚いたのです」

 お兄さんの手にあるのは、パンではなくナン。……どちらかと言うと、そういうものです。

 フワフワふかふかの丸みのある感じではなく……。ピザクラフトのようなナンのような……ペタンコで白っぽい色の品です。

 もちろん、不味くはないんですよ。美味しそうなんですよ。

 駄菓子に比べれば十分ご飯なんですよ。

 でも、想像していたのがクリームパンみたいな形のパン……中身のクリームはなくてもふっくらして茶色くつやつやなソレだったので……。

「ああ、教会によってパンの形には多少違いがある。細長い形のところもあれば、真ん中に穴の開いた丸い形のところもある。さぁ手を出して」

 左手を出すと、手の平の上にピザクラフトのようなナンのようなこの世界のパンをお兄さんが乗せてくれました。

「パン」

「パン」

 それからつぎつぎに魔石をパンに変えて上に積み重ねていきます。……10個くらい取り出した魔石を、全部パンに変えて積んでくれました。

「ふおおおっ」

 これで数日はパンに困ることはありません!

 パンタワーがぐらりと揺れて倒れそうになり慌てて鞄の中に入れます。

 包みがないのでちょっとだけ衛生面が気になるところですが、火にあぶれば大丈夫でしょう……たぶん。


========

チャンチャチャーン

ビザクラフトのようなパンを手に入れましたぁ!

駄菓子を使って何作ろう♪

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