第9話

「あ!町ですっ!」

 高い塀に囲まれた場所があります。きっとあれが町に違いありません。

 近づいていくと入口に門番が2人立っていました。

「これはもしかして……」

 身分証明書を出せって言われるか、町に入るには銀貨1枚だって言われるか……のやつなのでは?

 どうしましょう。お金もないですし、身分を証明するものも持っていません……。

「おいっ」

 早速、はなしかけられました。

「ひゃいっ」

 うー。緊張して変な声が出ました。

「王都から来るとは珍しいな?一人か?歩いてきたのか?」

「はい。一人で歩いてきました」

 正直に答えると、門番が首を傾げた。

「子供が1人で……仕事でも探しに来たのか?それとも、教会の噂をきいて祝福を受けに来たのか?」

 こ、子供だと思われてます。いえ、大人です。ぷんすかっ。

 教会の噂?

 そういえば、兵士さんは教会に行けと言っていましたよね?あれ?ギルドに行けだったかな?

 兵士さんは私を見て教会に行くのかと言っているので教会が正解?

 きっと、ギルドに行くと荒くれ者に絡まれるから行くなって言ってたんですよね?

「えーっと、教会に……」

「そうか、やっぱりな!この町の教会には神官皇様がいらっしゃる」

 神官こー様?神官候?

「素晴らしい料理の数々を手掛けていらっしゃる素晴らしいお方」

 料理を作る?

 神官こー様が?

「遠方から食べに来て料理を持ち帰る者も多いからね」

「遠方に持ち帰る?ってその……冷凍保存とか何かできるんですか?腐りったりしませんか?」

 王都の隣にあるこの町に来るだけでも3日もかかったのだ。いや、馬車なら1日で着くかもしれませんけれど……。料理は悪くなっちゃいますよね?

「あははは、さすがに本物の料理を持って帰るって意味じゃないよ。そもそもそれは許されないからね」

「そうそう、本物の料理を食べて、帰ってから複製で商売するってことだよ。お前もそのために来たんだろ?」

 え?

 待ってください。本物?複製?

「魔石を使って出てくる食べ物は……複製で、魔石を使わないものが本物ということですか?」

 私の質問に門番さんが首をかしげました。

「なんだ?知らないのか?それとも他の地域では別の呼び方があるのか?この町では、本物の料理と言えば魔石を一切使わずに使ったものだ。複製の料理は、魔石で出した料理。その他に合成料理と呼ばれるものもある。魔石で出した材料と、魔石を使わずに手に入れた材料を使った料理だ」

「そうなんですね……」

 もしかして、食べたことのある物を魔石で出すことができるというのは、本物を食べたことがあれば出すことができるということでしょうか。

「あの、魔石で出した複製の料理の複製は……」

「もちろん何度食べても出せないからな。騙されるなよ。本物だよと言われて高い金を払って複製料理を食わす詐欺師もいるからな」

「その点教会なら偽物を出すことはない。値が張るが、お金をケチって詐欺に金を巻き上げられることはないからな。教会はあっちだ。北へ向かえばすぐに分かるよ」

 なるほど、そう言うことなのですね……。

 食べものには、本物と複製がある。漫画の生原稿とコピーみたいなものですかね。

 生原稿は価値が高いけれど、コピーはそうではないのと同じように……料理の値段も違う。

 原稿は、印刷して売ればお金になるけれど、コピーからは印刷して売ることはできない。コピーガードみたいなのがついていると思えばいいのかな。

「ありがとうございました」

 ぺこりと頭を下げて、取りあえず協会に向かうことにしました。

 神殿……?

 まるでお城みたいな建物が、塀の上に突き出ているのが見えます。

 町を囲う塀よりもさらに高い塀に覆われた区画が現れたんです。どこまで続いているのかは分からないくらい長い塀です。

 人々が列をなしている場所がありました。どうやらそこが入口のようです。

 近づいていくと、列は2つあることに気が付きました。

 列の一つは子供連れの親子ばかりが並んでいます。もう一つはお金を持っていそうな人たちの列です。

 入口で受付業務をしている人に目を向けます。

 ……。

 えーっと、白装束ですね。

 ローブを着ています。

 召喚されてすぐに見た人を思い出してきゅっと体が固くなりました。

 きっとあの人も王様に命じられて私を召喚しただけで悪い人じゃなかったとは思うんです……。

 ううう、でも、生魚だとか生焼けの肉だとか……うん〇だとか腐った豆だとか、色々言われました。いえ、それも事実なのですし。うん〇だって、味がうん〇のカレーと、味がカレーなうん〇とどちらを食べる?という質問遊びがあるくらいなので、仕方がないです。したことも言ったことも何一つ悪くはない……とは思うのですが。

 なんていうか……あまり良い印象はありません……。

「何しに来た」

 受付にいた一人の白装束の人間が私に気が付いて近づいてきました。

「用がない者は邪魔だ。どこかへ立ち去れ」

 まるで子犬でも追い払うような仕草をされました。

「邪魔するつもりはなかったのです。すいません」

 すぐに謝ります。確かに、日本でも用がないのにお店の前にたむろしている人は営業妨害だと言われても仕方がありません。

「よくわからないことばかりで、どうしたらいいのか分からず見ていました」

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