第46話 無我無心

ひと月余りが過ぎた頃、シユは、解放された。


ひどくやつれ、顔には殴打された痕が残っている。


ギケイは憤り、世話をさせていた下男の首を、その場で刎ねた。


そして、それを間近で見ていたシユは、ついに正気まで失った。


夜も更け、ギヨウは、楼閣の最上階にある部屋へと上がった。


このような形で戦地に送り込まれて来るとは、想像もしなかった。


背を向けて横たわっているシユの背後に座る。


後悔を、するのだとしたら、どこまで遡ればよいのか。


あまりにも考えなしに行動するのは、困りものだ。


意識が戻ったら、改めさせる。

ふと、そこで思考が止まる。


戻らなかったら?


ギヨウは、シユの腰を小脇に抱えるようにして、夜衣の裾を捲り上げた。


そして、そこに埋め込まれていた張型を、丁寧に引き抜いた。


太さも長さもあって、容易に抜けないような細工がされている。


口が開いた穴は、二本の指も、やすやすと飲み込んでしまう。


柔らかな肉襞が、時折ぎゅっと収縮し、指を食い締めた。


思考は停止していても、体は反応する。以前より感度がいいくらいだ。


指を抜き、痩身を抱え上げる。今度は向かい合わせで、自分の体の上を跨がせた。


「違う」

しゃがみ込もうとしたシユを、両膝をつかせて、膝立ちにさせる。


太腿の内側に、筋を引いて流れ落ちていくものがあった。中に仕込んだ香油だ。


それを、下から上へと指先でなぞりながら、男は、静かに言った。

「お前がその気にさせたのだ」

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