第45話 人質

武具を纏ったギヨウが正面に現れると、ギケイは、目を細めた。


この国の安泰は、王弟の力に依るもの。陰で囁かれているのは、耳に入っている。


しかし、リコクがオウエンに討ち取られた今、選択肢はない。


国軍を動かす権力は与えても、国政に関与させなければいい。


それに先程、ハクエイに命じた。

連れて来たか。


「アレは置いて行け」

ギケイの視線が、遠く背後に注がれている。


嫌な予感がして、ギヨウは振り返った。シユを連れ、入って来たのは、ハクエイだった。


「オウエンと接触していたという噂が、朝廷の者たちに疑念を与えているのだ」


すれ違いざま、ハクエイは、冷ややかな目をして言い放った。


なぜ、もっとうまくやらないのか。不平を溜めているようだ。


ギケイは、側近から何かを受け取り、目の前のシユに見せつけた。


「先日、刺客に襲われた。この短刀に見覚えはあるか?お前の物ならば、この場でお前を処刑することもできる」


護身用にもなるそれは、先代の遺品で、この世にただ一つしかない。


成り行きを見守っていたギヨウは、無言で、踵を返した。


シユに与えたのは、何年も前だ。出掛ける時は、懐に入れておくように言っていたが。


不愉快極まりないが、一時の感情に流されても良いことはない。


今すぐシユをここから連れ出せないのなら、早く戦いを終結させて戻る。それだけだ。


男は拳を固く握りしめ、振り返ることなく、その場を後にした。

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