第37話 小鳥の求愛

「だから、反対したのだ」

ギケイは、そう言って、盃に口をつけた。


王府の外で跪くなど、あまりにも愚かで、許し難い行為だ。


「万一、真似をするような妃たちが現れたら、即刻、冷宮へ送ってやる」


元凶は、貴妃だ。それについては、咎めなしとするつもりか?


ただ、あの時、怒りを感じたのはシユに対してで、正直、他はどうでも良かったが。


「リコクを呼んだ。北は南軍に対処させる。それで忘れろ」


兄王の思いがけない譲歩に、ギヨウは黙り込む。


これは贖罪だ。ハクエイが、顛末を話したに違いない。


「御意に」

ギヨウは答えたが、今すぐにも、ハクエイの所へ行って、勝手な行動を咎めたかった。


「ところで、使ったのか?」

ギケイは、唐突に話題を変えた。


「シユを仕込むつもりだろう?」

喉元を通り過ぎようとした強い酒が逆流し、ギヨウはむせる。


離宮から、性具を持ち出したのが、バレているようだ。


「アレは、足腰が丈夫だから、色々と楽しめる。尻の形も良い」


弟の顔が、段々と曇っていくのを見て、ギケイは、意地の悪い笑みを浮かべた。


部屋の隅に吊り下げられている鳥籠の中の鳥が、バタバタと暴れ始める。


「勘違いするな。乗馬が得意と聞いたからだ。殺気を鎮めろ」


ギケイは、飼育している奇鳥を、心配そうに見つめている。


そして突然、思い出したかのように、呟いた。


「知っているか?鳥は、世話してくれる人間に、求愛行動をすることもある」

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