第31話 どうすれば?

何かおかしい。


気付いたのは、シユが頻繁に、時間を気にしていたからだ。


シユが離席した後、毒薬の残数を確認して、疑いが確信に変わった。


完全にしてやられた。まさか、こんなことをするとは、想像もしていなかった。


「黙っていればいい」

ハクエイに向かって、シユが言った。


「何を言っているか、分かっているか?」

「分かっています」


二人の間に、沈黙の時が流れる。言葉を交わさずとも、通じるものがあった。


静寂を破ったのは、ハクエイだった。

「早く横になれ。水を持って来る」


その夜、ハクエイは、シユのそばで、思考を巡らせていた。


実子が助かっても、シユが死んでしまうようなことがあれば、本末転倒だ。


シユをゴ家に奪われたくなくて、もうけた子供なのだ。子のほうが、人柱の役割だ。


明け方、シユが目を覚ました時、ハクエイは、まだそこにいた。


「すべて報告する。呼び出して、すまなかった」

そう言って、ハクエイは出て行った。


シユは布団の中で、寝返りを打った。体は、正直だるい。


役に立てたことが嬉しいのに、何だか悲しくなって来る。


他に方法はなかったかと、何度も考えてみるが、思い浮かばなかった。


どうすればよかったというのだ?

答えが分からない。


あの子がこっちを見た時、初めて会った感じがしなかった。


ひと目で情が湧き、この子のためならば、と思った。


悪いことなんてしていない。後悔もしていない。


だから、絶対に謝らない。

謝らないぞ。



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