第30話 解毒薬

あの禁書。恐らく、あれを見た誰かが調合した毒薬だ。


シユは、禁書に記された毒薬の解毒薬を、全て、持参していた。


そのうち、二種まで絞り込んでいるが、どちらを処方すればよいか、迷っていた。


両方の薬を試す体力は、残っていない。とすると。


禁じ手を使いたいが、ハクエイが張り付いていて、そう簡単ではない。


先程、毒薬を調べる時に、瓶の中の一粒を、袖の中へ隠した。


以前、ヒツから教わった方法だが、こんな形で役に立つとは思ってもみなかった。


毒薬を、袖から湯呑みに落として、お茶と共に飲む。


そして、何食わぬ顔をして、線香に火をつけ、時間の計測を開始した。


燃え尽きた後、ハクエイが離席したのを見計らい、一つ目の解毒薬を飲んだ。


気分は、一層悪くなった。心拍は乱れ、手足の震えが止まらない。


組み合わせが違うならば、ただ効かないだけ、の想定だったが、悪化している?


「こちらを」

まだ飲んでいない方を、ハクエイに手渡す。


ハクエイは、それを受け取り、早速、子供に飲ませた。


「少し休みます」

シユは、そう言って、席を立った。


廊下の途中で、急いで、子供に飲ませたものと同じ解毒薬も飲む。


二種類飲んだとしても、無害なもの同士で、影響し合うことは考えにくい。


しかし、用意された部屋が、目の前という所で、シユは倒れ込む。


思いの外、毒の回りが早い。

もしかして、あの幼子より体力がない?


背後から、ハクエイの声がした。

「どういうことだ?」

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