第29話 深夜の訪問者

折衝のため、ギヨウと側近の数名は、北辺へと向かった。


だが、側近の一人で、最年少のジンロンは、王府に残っていた。


これほど腹立たしいこともない。すべては、この奴婢のせいだ。


シユは、書物を広げた机に突っ伏したまま、眠っている。


こんな汚物には触れたくない。どうやって、寝台に運べば良いのだ。


その時、廊下から足音が響いて、ジンロンは、剣に手を伸ばした。


「シユを起こせ」

声の主は、ハクエイだった。


「急病人だ。シユを連れて行く」

「夜間は、東殿から出すなという指示です」

「私が責任を取る」


ハクエイに連れられ、到着したのは、高い周壁に囲まれた、豪邸だった。


シユは、誰にも会うことなく、ハクエイに導かれるまま、部屋まで来た。


聞いた症状からすると、自死した下人が持っていた毒薬を、飲んだに違いない。


入って、まず驚いた。寝台に寝かされているのは、子供だった。


この子は誰なのだろう。名家の子供であるに、違いないが。


それとも、ハクエイに隠し子が?


だが、今は、そんなことを考えている場合ではない。


呼吸は浅く、脈も弱い。体が丈夫だから、持ち堪えているのだ。


子供が、ゆっくりと目を開く。シユを一目見て、その後、再び、目を閉じた。


シユは、飛び上がるほど驚いた。この瞳は、王家のものだ。


この子は、ギヨウの子か?

存在は知っていたが、会うのは初めてだ。


腕利きの医者や薬師ではなく、自分が呼ばれた理由を、シユは、何となく理解した。

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