第26話 望まぬこと

門の外には、背の高い、墨色の深衣の男が、一人で立っていた。


「朝食はまだか?」

問われて、シユは、頷いた。


屋敷の人間には、ハクインの家に泊まる、と伝えて出て来た。


家やその周辺を、偵察に来たのだろうか。そんな暇人ではない、はずだが。


街の酒楼で、軽く朝食を済ませる。その後、風呂桶を買いに行くことになった。


「どこに売っている?」

街中を、何往復もした後、ギヨウが聞いてくる。


「知らない」

そう答えると、ギヨウは少し、考えるような素振りをする。


「時間がない。お前も来い」

時間?何のことだろう?


歩幅が違い過ぎて、シユは、ほとんど小走りだ。


王府の門の前に着き、シユは、ギヨウを見上げた。なぜ、東門でなく、西門なのか。


うっかり、ついて来てしまったが、ここから先へは、入りたくない。


それでも、仕方なく、何年かぶりの王府の門をくぐる。


「遅かったな」

渋々、連れて行かれた先には、ギケイがいた。


円卓には、豪華な料理が用意されている。我々を待っていたようだ。


ギケイの隣には、妓楼の入り口で見た、あの女が座っている。


来た道を振り返ろうとすると、ギヨウが、目の前に、立ち塞がった。


本気で逃げようとすれば、この男は、きっと止めない。


でも、ギケイは、その埋め合わせを、この男に求めるだろう。


望まぬことを、強いられる。王府は、昔から、そういう場所だ。


シユは、ギケイと愛妾に敬礼して、着席した。

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