第25話 独身貴族

「重い」

シユは、圧迫感で、目を覚ました。


ハクインに、抱き枕にされ、太い片腕が、お腹に乗っている。


ハクインの家は、だいぶ年季が入っているが、広さは申し分なかった。


敷地内、左右対称に部屋があり、向かって中央に、台所や風呂などがある。


日々、修繕を重ねているようで、工具やらがそこら中に散乱している。


自分で買った家屋を、手直ししながら住む。いかにも、ハクインらしい選択だ。


その時、若い男が飛び込んで来た。

「大変だ!」


向かいの部屋を、友人に貸していると言っていたが、その友人だろう。


「どうした?」

ハクインは、おもむろに、裸の上半身を起こす。


「門の外に、ギヨウ様が立ってるんだよ。間違いない。俺は終わりだ。助けてくれ」


なんだ、そんなことか。ハクインは、途端につまらなそうな顔をする。


「お迎えが来たぞ」

シユは、ピクリと反応した。


「その子は誰だ?」

「あいつ専用の穴さ」


バチンと、ハクインの横顔に、シユの容赦ない平手が飛んだ。


「痛ってぇ。冗談だろ」

よけようとすれば、よけられたのに、ハクインは、そうしなかった。


「何だ?図星か?」

不敵な笑みを浮かべ、シユの顔を、まじまじと覗き込む。


立ち去ろうとするシユを、ハクインは、背後から腕を回し、制止する。


そして、耳元で囁いた。

「俺だったら、朝帰りは許さない、けどな」


自分で誘っておいて、どの口がそれを言うのだ。


シユは、ハクインを引き剥がし、靴を履いて、部屋を出て行った。

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