第24話 仮面

「ここまでにするか」

ハクインは、そう言って、立ち上がった。


予想に反し、大勝ちして、所持金は今、数倍に膨れ上がっている。


元手は、シユから巻き上げた。あの男の金を、ドブに捨ててやるつもりだったのに。


「どこか行きたいとこあるか?」

ハクインに問われ、シユは首を振る。


賭場を出て、二人は、妓楼そばの、橋の上まで来た。人通りはまばらだ。


よいしょ、とシユは、橋の手すりに、腰をかける。


ハクインが、妓楼に寄りたいと言うのなら、ここで待つつもりだ。


ハクインは、片腕をシユの腰に回した。

「なんで座る?危ないから、降りろ」


シユは、妓楼の方へと目を向けた。入り口には、立派な輿が止まっている。


男が出て来て、足場を設置すると、御簾を押しのけ、一人の女が姿を現した。


頭頂部や首周りの煌びやかな装飾品で、高貴な身分と分かる。


「ギケイの女になっちまった」

ハクインは、ぼそりと言った。


後宮の輿か。男の身なりは、そう言えば、内廷の役人たちのものだ。


当代のモテ男も、自分が好意を寄せた相手にはフラれた、というわけか。


その後、何気なく、シユは、妓楼の上階へと視線を這わせ、ドキリとした。


不気味な仮面を付けた人間が、窓辺に立って、こちらを見下ろしていたからだ。


怖くなり、慌てて、手すりからすべり降りる。


「お腹すいた」

ハクインの袖を強く引くと、ハクインは、ようやく、女から目を離した。


「家のそばに、美味い麺屋がある。寄って帰ろう」

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