第22話 我が子

「戻られたばかりで、お忙しいのでしょう」

メイユィは、侍女たちをなだめた。


この国が他国の侵略を受けず、民が安心して暮らせるのは、誰のおかげ?


この立派なお屋敷で、何自由なく暮らせるのは、誰のおかげ?


あとは、あの子が、健やかに成長してくれれば、それでいい。


共に過ごせる時間は短くとも、子はいずれ、巣立ってゆくもの。それに。


ゴ家の当主となることが決まっているからこそ、後宮勢力の魔の手が伸びて来ない。


計算された差配に、感謝こそすれ、これ以上、望むことはない。


「雨が降って来ましたよ。さぁ、坊や。早く、中に入って」


尚書部の一室で、書き物をしていたハクインは、顔を上げた。


雨と風が、次第に強くなって来ている。時折、雷の音もし始めた。


気配もなく、入り口に現れたのは、ギヨウだ。


帰都してから、終始、ギケイに拘束され、ゆっくりと話もできていないが。


「どうした?」

「今から行けるか?」


ハクエイは、窓の外へ視線をやった。この嵐の中を行くのか?


戦場での生活に慣れたギヨウと、自分は違う。雨に濡れるのは、嫌だ。


だが、メイユィは喜ぶ。早く、会いたいに決まっている。


「泊まるか?」

聞くと、ギヨウは、少し驚いたような顔をする。


今やっと、己の考えのなさに、気付いたようだ。

「明日の昼にする」


メイユィには、悪いことをした。だが、この悪天候だ。許せ。


ハクエイは小さくため息をつき、その後、何事もなかったかのように、書き物を続けた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る