第20話 尻軽
シユは、オウエンの指示どおり、その長い髪を、綺麗に結い上げた。
「面白い」
オウエンは手鏡を見て、満足そうに笑う。
市中で買った毛皮を纏い、顔には厚い化粧を施している。
今日は武芸大会があり、オウエンは、身元を隠して、参加する予定なのだ。
支度の手伝いが終わり、シユは、ギヨウを呼びに行った。
朝食を取った後、一緒に会場へ向かう。出場はしないが、大会を見るという。
ギヨウに、変装を拒否されたのは、残念だった。
この地では顔が割れていないと言うが、本当だろうか。
降りて行くと、宿屋の一階は、屈強な男達で、埋め尽くされていた。
一番奥まった席に、案内される。目の前に、ギヨウが座った。
すぐにも、ギヨウの斜め後ろの男が、誘うような目で、合図を送って来た。
髭面の、無骨な顔の大男で、山賊のような出立ちだ。
注文した鳥粥が届くと、ギヨウは、小さな器に取り分けた。
その一つが、目の前に置かれ、ギヨウが手を引く前に、すかさず、その手を掴む。
尻の軽い男娼にでも見えているなら、それをそのまま、演じてやる。
大きな手の平に、自分の頬を寄せて、擦り付けるようにする。
すると、斜め後ろの男が、こちらを睨みつけ、席を立つのが見えた。
ギヨウが、何だ?といった顔で、自分を見つめて来る。
慌てて手を離し、何でもないという風に首を振り、箸を掴んだ。
「まだ待て」
咄嗟の制止も、間に合わず。
「あちっ」
口に入れた粥の熱さに、シユは飛び上がった。
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