第19話 残り香

深夜を過ぎて、ギヨウは妓楼から、客桟へと戻った。


強い酒を、散々飲まされ、ひどく酔っている。


案内された部屋へ行くと、シユが待ち構えるように、立っていた。


別の部屋を、と思い、体を引きかけると、袖を引っ張られる。


シユは、袖に鼻先を近づけ、匂いを嗅ぐ仕草をした。


払い除け、部屋に入ろうとするも、今度は、すれ違いざま、手を取られる。


「脱いで」

「何を言っている?」

「薬を塗る」


なるほど。真意は測りかねるが、ある意味、妓女よりも、誘い方が巧みだ。


これは、目的を果たすまで、寝させてくれなそうだ。ならば、早く済ませたい。


寝台へ向かうギヨウに目をやりながら、シユは、机上の薬箱を取り上げた。


酒の力だとしても、この男を、自分の意に従わせるのは、気分がいい。


幾重にも着込んだ上衣を、ギヨウは、さっさと脱ぎ捨てた。


蝋燭の明かりが、裸の半身を、影濃く映し出す。


厚い胸板に、細かく割れている腹筋。腰周りは、見事なほど引き締まっている。


上腕は、筋肉の塊だ。変色していた片腕は、元に戻っているように見える。


先程、ギヨウの深衣からは、今宵、侍らせていただろう妓女たちの匂いがした。


女たちは、この肉体に触れて、存分に楽しんだに違いない。


自分だって、触りたい。拒絶されたら傷つくから、我慢している。


こんな風に思う日が来るとは、想像もしていなかった。


貴方が母に捧げた愛は、どれほど清らかなものだっただろう。


今ならそれが分かる。

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