第18話 野に咲く花

離れに足を運ぶと、そこはもぬけの殻だった。


急に姿を現したかと思ったら、あの後すぐ、発ったようだ。ただ、何か引っ掛かる。


「厩舎はどうだ?」

「ヨモギがいません」


報告を聞き、ギヨウはすぐに動いた。誰の手を煩わせることもなく、身支度をする。


配下の者たちは、指示を待ったが、誰にも声は掛からなかった。


帰還してから連日、謁見を求める者たちは、長蛇の列をなしている。


留守の間、そちらを捌け、ということのようだ。


ギヨウは一人、北へと馬を走らせた。道の両側には、黄色の草原が続いている。


小さな花は、黄花竜牙という。


野に咲く花の名など、関心はなかった。あの人に出会うまでは。


北部の州へと入り、最初の町の客桟の裏で、ヨモギを発見した。


「こんな所で何をしている?」

桶を手にしたシユが、ビクッと体を硬直させた。


オウエンに、何か言われただろうことは、想像がつく。


とは言え、この状況は、なかなか許し難いものがあった。


シユは、もう来たか、といった表情を浮かべている。


この憎たらしい生き物を、目が腫れるほど、泣かせてやりたい。


自分が、どれほどの心配をかけたのか、分かっているのか。


だが、ギヨウは、自問する。

力弱き者を支配して、何になる?


ギヨウが馬を降りると、シユは、ギヨウの乗っていた馬に手を掛けた。


周囲を見回し、他には誰もいないことを確かめると、ヨモギの横に、馬を寄せる。


「少し付き合え」

背後から、オウエンの声が響いた。

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