第17話 別の未来

その日、ソウハらは、事案の相談のため、ギヨウの元へと訪れた。


早朝にも関わらず、屋敷は引っ越し作業で、騒然としている。


数里先に建設中だった内城が完成し、そちらに拠点を移すのだ。


ギヨウの顔には、疲労が滲んでいる。内政に関わる仕事が、増大しているせいだろう。


「ソウハ様?」

ソウハは、ふと我に帰った。


皆が、自分を見ている。何の話をしていたのだったか。


その時、一人の男が入って来た。体はいかつく、白の深衣を纏っている。


今、朝廷が、最も警戒している人物。北の将軍オウエンだ。


「帰る」

オウエンは、そう言い放ち、出て行った。


「いつから居たのです?」

ソウハの問いかけに、非対称の色の双眸が、ゆらりと動く。


「隠していたわけではない」


ソウハは、責め立てたい気持ちを、抑え込んだ。


部下の報告を、思い出した。今のギヨウは、戦場で剣を握れる体ではない、と。


「我々も、随分と見くびられたものですね」


ソウハの呟きを聞いて、御史たちは一斉に、ギヨウの反応を見た。


ソウハは、ギヨウより年上で、権限もある。

しかし。


気に入らなければ、ギヨウはこの場で、我々を斬り捨てることもできるのだ。


無論、そのようなことはしない。段々と、分かって来た。


文事ある者は必ず武備あり。


目前の軍の総大将は、むしろ、六部の尚書より、仕えやすい印象さえある。


今から、武芸を磨いて。

いや、もはや手遅れだ。


若者たちは、選ばなかった別の未来に、思いを馳せていた。

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