第16話 薬師
ヒツは自分たちを、薬師を目指す書生と、少女たちに伝えた。
ヒツが服を借りたのは、このためだったのだ。
既に薬師の自分も、嘘をついていることに、変わりはなく、後ろめたい。
薬師になれば、通行証が発行されると聞き、この地へ来て一年目、勉学に励んだ。
試験のたぐいは苦手だが、何とか合格して、役所の門を叩いた。
だが、一向に発行されなかった。どこかで思ったのは、孤児だから、ということだ。
身元引受人的な存在を、示すことが出来なかった。
王府にいれば、誰かが一筆書いて、一瞬で片が付いただろうが。
「これ読める?」
考えに耽っていたら、少女が、話しかけて来た。
ヒツは、もう一人の少女を連れて、どこかへ行ってしまった。
城壁外は、暗くなると危険が増す。陽が落ちる前に、帰った方がいい。
退屈にさせてしまい、最後にせめてもと、読んで聞かせると、少女は目を輝かせた。
農村から、奉公のために街へ出て来た娘は、文盲が多い。
少女の手が、ひどく荒れているのを見て、シユは、その手を取ろうとした。
しかし、咄嗟に少女が手を引き、触れることは許されなかった。
先程まで、笑顔だった少女が、怯えた表情をしている。
懐に入れていた塗り薬を、渡そうとしただけだったが。
同年代の女の子は、接する機会が滅多にないから、よく分からない。
書生はモテる、とヒツは言っていたが、嘘だ。
一刻もこの場を去りたい。シユは立ち上がって、ヒツを探した。
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