第15話 廟市

それからひと月、シユは薬を届けるため、屋敷に通い詰めた。


体は見せてはくれないが、薬は使っているようだった。


邸店に戻ると、ヒツが、欄干に腰を掛けて、通りを眺めていた。


今日はこれから、廟市に行く。既に街中、お祭り騒ぎだ。


「服貸して」

ヒツは、シユの服から一着を選んだ。化粧は、しなかった。


急に男前に変身したヒツを見て、シユは、複雑な気持ちになる。


自分より似合っている。それに、妙に大人っぽい。


「地味だけど、悪くないね」

ヒツは、全身を見回し、満足げに言った。


廟の境内や参道は、多くの人で、賑わっていた。


焼香した後、遅い昼食を取り、演劇を鑑賞したり、大道芸を見物した。


ヒツは知人に会う度、長話をするので、その間、シユは露店を眺めて、時間を潰した。


「何かいい物あった?」

ヒツが、酒瓶を引っ提げて、戻って来た。二人の少女を連れている。


顔を強張らせたシユを見て、ヒツは、シユの耳元で囁いた。


「シユがヤラせてくれるなら、帰ってもらうよ」


不意に、記憶が蘇った。指を入れて調べられただけでも、痛かったのに。


ヒツの体は、男を受け入れるように、訓練されている。


ギケイの世話係たちも、そうだった。でも、自分は違う。


「俺が教えてあげようか」

先日の件は話していないが、ヒツは勘づいているようだ。


まだ何か言いたそうで、シユは慌てて、ヒツの口を、押さえ込んだ。


白昼堂々する話ではない。それに、女の子たちに聞かれたら、恥ずかしすぎる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る