第10話 しがらみ

ギヨウは、上から圧力をかけて、シユに通行許可証が渡らないようにしていた。


戦地において、薬師は当然に需要が高い。従軍を望めば、即発行され、国境を渡れた。


通行許可証を盗まれただけなら、県尉たちも、逃亡するに至らなかっただろう。


敵国の残党と内通していることが、明るみになるのを恐れたのだ。


本人のみならず、家族や親族までもが、処刑の対象となる。


ギヨウは、人払いをしている離れの客室へと足を運んだ。

「いつまで、隠れているつもりだ」


オウエンは、数日前、一人の下男を従えて、ふらりとやって来た。


「私がここにいるのが知られたら、困るのはお前ではないのか」


オウエンは、庭先にいるテイカを見つめている。先程まで、手合わせをしていた。


テイカほどの技量になると、その道に、自分を超える存在が、ほとんどいない。


だから、理解できる。その孤独も、自分を認めてくれる存在の有り難さも。


「あの者には、何のしがらみも無い。羨ましいか?」


ギヨウが欲しいのは、今も昔も、自由だ。皮肉にも、それだけが、手に入らない。


「求められていないのは、承知だ」

「隠れるくらいなら、帰れと言っている」


オウエンの指揮する北軍は、今一番、力を有している。


北方の国と結託するようなことがあれば、すぐにも、東軍を北へ向ける必要がある。


あるいは、東軍と合わされば、現政権を転覆できる大勢力となる。


「私に指図をするな。誰の指図も受けぬ」


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