第9話 御史大夫

御史大夫のソウハは、法秩序回復のため、ギケイから全権を委任され、赴任して来た。


その存在は、この地における、ギヨウの権限を、相対的に弱くするも同然だ。


自分たちを、招かれざる客として、扱うのではないか。


ソウハ自身、また配下の御史たちも、身構えていたが、杞憂だった。


二十人ほどの御史が、左、正面、右と、ギヨウ一人を取り囲む。


ギヨウは、俯きがちに目を伏せ、彼らの話に、じっと耳を傾けている。


権力闘争には、興味がない。軍神の顔には、そう、書かかれている。


王都の通りで売られている、恐ろしい化け物のような似顔絵は、一体、誰なんだ。


ギヨウを初めて見る若い御史たちは、皆、同様の疑問を持った。


武器の輸送経路が、外部に漏れている件は、以前から、調査を開始していた。


謎なのは、禁書の方だ。何年も前に、全て焼かれたはずなのに、また出回り始めた。


まだ実物を確認していないが、県尉の話によると、既に一部は、東に渡っているという。


ギヨウが途中で、急に表情をこわばらせたのに、数人が気づいた。


県尉たちから盗みを働いたのは、男妓で、北門そばの邸店にいる、というくだりだ。


その時、外に控えていた別の御史が、新たな情報を伝えに、入って来た。


「捕えられていた県尉たちが死んだと、今、報告がありました」


「死んだ?」

あり得ないといった口調で、ソウハが尋ねる。


「はい。気づいたら、口から泡を吹いて、死んでいたとのことです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る