第8話 新しい風
二人の県尉は、逃亡に失敗し、軍部の牢へと連行された。
罪状は、職務懈怠だったが、逃亡に至った経緯を、一人が吐いた。
街で買った男妓と戯れている間に、意識を失い、所持品を盗まれた。
所持品には、軍の機密情報や毒薬の生成方法を記した禁書が、含まれていた。
東門を抜けて、その先の街で、情報の買い手と落ち合う予定だったという。
その頃。ソウハ率いる一行は、邸店の前に来ていた。
「お前が行け。最上位の部屋だ」
ソウハが、ムーレイに指示する。
冷たい印象を与えるのは、三白眼のせいもあるが、実際、ソウハは、冷淡な性格だ。
ムーレイは馬を降り、小さくぼやく。俺は護衛官で、駒使いではないんだぞ。
東の国境付近は、長い戦乱の影響で、法秩序が崩壊し、匪賊がはびこっている。
こんなにも早く、ギケイが、この地の政情安定に乗り出すとは、考えてもみなかった。
だが、来てみて分かったことだが、ここは、王都より、断然活気がある。
治安の問題はあるが、そもそも匪賊の多くは、王都から流れて来た者たちだ。
女主人が出て来た。一番良い部屋は、空いているとのこと。
ふっかけられているのではないか、と思うほど高額な宿代を、先払いする。
兵農一致の政策で、この土地の民は、戦地に行った者も多い。
未来を案じても仕方ない。不確かな明日よりも、今この時をどうするか。
ギケイが、この地に目を光らせている理由が分かった。
ここには、新しい風が吹いている。
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