第4話 弱点

テイカの家は、邸店から徒歩すぐの所にあった。


雨風がやっと凌げる、ぼろ家だ。鍵は壊れていて、誰でも出入り自由となっている。


宵越しの銭は持たぬ主義。刹那を生きるテイカの人生には、憧れる。


だが、たんに金品をしまっておく場所がないだけでは、ともシユは思っている。


少しして、テイカが戻って来た。

「髪、どうした?」


自分で切った、と答えると、テイカは、非難の表情を浮かべた。


「自分の髪だ」

シユは、頼んでいた品を受け取り、足早に立ち去る。


この三年間。ギヨウに会いたくても、会えず、シユは、苦しかった。


お前は、あのかたの弱点だ。荒れるシユに、ある時、テイカはそう浴びせかけた。


常勝不敗の孤高の剣士。人々は、テイカをそう呼ぶ。


テイカにとって、弱点とは克服すべきものであり、許容できないものなのだ。


シユは、王家の屋敷へと向かった。門扉を開けてくれたのは、見知った衛兵だった。


この東の州都へ来て、最初の一年、シユはこの屋敷で、ギヨウを待っていた。


自分の部屋もある。その後、二年空けたから、今はどうなっているか分からないが。


「あら、今から夕飯よ。あなたも食べる?」

屋敷の厨房で働く、下女のウェンさんだ。


「ありがとうございます。いただきたいです」

そう答えながら、シユは、下女のお腹の膨らみに気づいた。


最近は、邸店の雑用のほか、医師の手伝いの仕事もして、お産に立ち会うことも増えた。


女は、心なしか、顔色が悪く見えた。

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