第2話 同居人
その邸店は、街の中心にあった。内装は、見渡す限り赤色だ。
「仕事手伝わないなら、ここへ置いてやらないよ」
女主人の声を無視し、シユは、渡り廊下を進んでいく。
ここ一年ほど、シユは、この宿屋を寝ぐらにしている。
「おかえり」
暗がりから声がして、シユは驚きのあまり、尻餅をつくところだった。
火を灯すと、今夜は不在のはずの同居人が、寝台に横たわっていた。ヒツだ。
シユは、咄嗟にヒツの手首を掴み上げ、それから荒々しく、ヒツの服を剥ぎ取った。
二人に、体格差はない。何なら、歳も同じだ。
「乱暴する気?」
全裸になったヒツは、おどけるように言った。乱暴するも何も、既にされた後だ。
客の所へ行かなかったのは、行かなかったのではなく、行けなかったのだ。
「今から行くよ」
ヒツはそう言って、気だるげな様子で、起き上がろうとする。
浮気をしない対価として、ヒツは先日、とある上客から、大金を巻き上げたばかりだ。
こんな体を見せられるわけがない。シユは無言のまま、薬箱を取り出した。
当面、生活には困らないのだから、自分の体を大切にして欲しいのに。
言っても、お前に何が分かる、と返されるだけだから、シユは沈黙する。
「金くれる大人の言うことは、聞いとけって?」
何だって?
ヒツは、皮肉を言っているのだ。お前だって、聞かないだろう、と。
「どいて。行くから」
「行かせない」
「なら、お前が代わりに行け」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます