第2話 同居人

その邸店は、街の中心にあった。内装は、見渡す限り赤色だ。


「仕事手伝わないなら、ここへ置いてやらないよ」


女主人の声を無視し、シユは、渡り廊下を進んでいく。


ここ一年ほど、シユは、この宿屋を寝ぐらにしている。


「おかえり」

暗がりから声がして、シユは驚きのあまり、尻餅をつくところだった。


火を灯すと、今夜は不在のはずの同居人が、寝台に横たわっていた。ヒツだ。


シユは、咄嗟にヒツの手首を掴み上げ、それから荒々しく、ヒツの服を剥ぎ取った。


二人に、体格差はない。何なら、歳も同じだ。


「乱暴する気?」

全裸になったヒツは、おどけるように言った。乱暴するも何も、既にされた後だ。


客の所へ行かなかったのは、行かなかったのではなく、行けなかったのだ。


「今から行くよ」

ヒツはそう言って、気だるげな様子で、起き上がろうとする。


浮気をしない対価として、ヒツは先日、とある上客から、大金を巻き上げたばかりだ。


こんな体を見せられるわけがない。シユは無言のまま、薬箱を取り出した。


当面、生活には困らないのだから、自分の体を大切にして欲しいのに。


言っても、お前に何が分かる、と返されるだけだから、シユは沈黙する。


「金くれる大人の言うことは、聞いとけって?」


何だって?


ヒツは、皮肉を言っているのだ。お前だって、聞かないだろう、と。


「どいて。行くから」

「行かせない」

「なら、お前が代わりに行け」

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