因習バトルアイランド

@guriber

第1話

僕はジョージ。日本の因習が大好きな普通のアメリカ人だ。

今日は友人のトムと一緒に日本を観光しに来ている。


「ジョージ、海外旅行はやはり不安だ。異文化摩擦で問題を起こさないか不安だ」

「トム、不安なんて何もない、日本人はとても誠実な人々だからね」


二人が成田空港の出口に着くと、いきなり少女たちから花の首飾りをつけられた。


「ハワイに似た文化が日本にあったか……What!?」


僕とトムは驚いた。日本人が踊り続けていたのだ。それも全員だ。思い出してみると入国審査官も踊っていた。

東京駅に向かう電車の中はダンスホール状態。東京駅から出れば視界全てがダンサーであった。


「すまないトム、僕たちは間違えてインドに来てしまったのかもしれない」

「インド人だって四六時中踊ってはいないだろ」


ここまで文化意識が異なると僕も不安になる。失礼を承知で日本人にこの現状を聞いてみた。


「ジョージ、日本人はなんて言っていた?」

「どうやらトロピカル因習アイランド化によるものらしい」

「トロピカル因習アイランド化…?」

「つい1週間前、都道府県ごとの格差をなくすため、日本という島国が丸ごと1つの村とする法案『トロピカル因習アイランド』の適用を政府が発表した」

「住所どうすんだよ。番地がすげぇ長くなるじゃねぇか」

「当然その中には因習がある村も含まれる。同じ村人なら全員因習に従わなければならない。その結果がこれだ」

「全国の因習を取り込んでこの程度で済んだのなら、まだマシなのかもしれないな」

「とんでもない!この踊りこそ日本人を破滅へと向かう因習なんだよ!」


僕はブレイクダンスをしながらトムに説明しているが、トムはこの事態を正しく把握できていないのか、未だ突っ立っている。


「日本のとある村には『村人がなくなった次の日は一日中踊り続けないといけない』という因習があった。その村は人口100人にも満たないから問題なかったが、日本人口は1億人を超えている。それだけ人がいれば当然毎日誰かが亡くなる。これにより毎日踊り続けないといけなくなったようだ。悲しい因習の連鎖だね」

「早くその法案を取り消せよ」

「トム、踊りながら国会を開けるわけがないだろ?日本人は誠実なんだから」

「今この国で一番賢い発言をしたつもりだったのにバカにされたよ」


トムの眉が少しひきつっている。


「いったいどうすればいいんだ……」

「いや、踊らなければいいんだろ?どうせ警察官も踊ってるんだろうから無視したって捕まらないよ」

「それはだめだよトム、空港で渡された花の首飾りを見てごらん、時計が仕込まれているだろ? どうやら踊っていない間だけ時刻が進むらしく、一日1時間以上踊らないと爆発するらしい」

「バカ!それを早く言え!」


羽田空港から東京駅の移動で約50分経過している。ゆえに僕たちは今日が終わるまで踊り続ける他にない。

僕の得意技がブレイクダンスであることが仇になっており、今日が終わるまで首が持つのかも怪しい。


「だけど大丈夫だトム、さっきホワイトハウスに直電しておいた」

「大統領に直接電話するお前は何者だよ」

「すでに日本各地で爆撃が行われている」

「え…爆撃…?」


僕たち二人は踊りながら目を閉じて耳を澄ましてみると、遠くの方から爆発音が聞こえてくる。飛んでいるのはアメリカ人なら毎日乗っているボーイングB-17だ。


「明日死ぬ人間が一人もいなくなれば、この因習の連鎖も止まる。流石大統領、現代兵器に勝てる因習なんてないんだ!」

「カプコンのゲームでもこんなに早く爆発オチはしないだろ普通!」


僕たちは急いで踊りながら地下シェルターに入ろうとしたが、みんな踊っているため思ったより人数が入らない。特によそ者の僕らにはみんな冷たく、僕らは外に追い出されてしまった、流石因習アイランド!

どうしようもないので、僕たち二人は誰もいない秋葉原の道路でブレイクダンスを踊っている。


「アメリカからやってきた飛行機のパイロットはすでに爆死。日本のパイロットはみんなダンス中だから飛行機を飛ばせない。どうやってこの因習アイランドから脱出すればいいんだ」

「トム、この国から脱出しようと考えているところ悪いけれど、それはやめた方がいいみたいだよ」

「なぜだ?」

「大統領から電話があったけど、アメリカ軍が全滅したらしい」

「全滅…!?」

「日本の国土の上に1時間以上飛行しないようにはしていたらしい。だけど、日本国土から少しでも出たアメリカ軍は心臓麻痺となったそうだ」

「なんでだよ!踊らないと爆発死するんじゃなかったのか!?」

「それはあくまで無理やり躍らせるために国が行った施策だ。だが、元から因習なのだから、因習を履行せずに村の外に出たら死ぬのは当然だろう」

「日本ってこんなに早く呪いが浸透する国なの!?」

「安心してトム、どうやらアメリカ軍が全滅したことで、アメリカ人はみんな日本に敗北したと思ったらしい。これによりアメリカは日本の属国と認識されたことで、アメリカにも因習が浸透してみんな踊っているよ」

「ちょっと認識しただけで他国も因習の対象になるの、怖すぎだろ!!」


トムは恐怖で絶叫しながらブレイクダンスを踊っている。すでに首が30度ぐらい曲がっており、コケるのも時間の問題だ。だからこそ言わなければならない。


「諦めるな!この世界を揺るがす因習に立ち向かえるのは僕たちだけだ、トム」

「立つことすらままならない俺たちに何ができるっていうんだ!」

「新しい因習を作るんだよ!」

「新しい…因習…?」

「そうだ、法案は国会を通さないと作れないけど、因習なら誰でもすぐ作れる!因習に勝てるのは因習だけだ!」

「なんで因習バトルを起こそうとしてるんだよ、やだよそんなホビーバトル漫画!」

「よく聞くんだトム!因習を履行できなくなると心臓麻痺になるってことは、邪神的な存在が因習を管理しているってことだ。だが、因習と因習、2つのルールがコンフリクトを起こしたらどうなる?」

「因習のコンフリクト…?」

「うまくいけば処理が追い付かずに邪神が消滅するかもしれない。仮にそうならずにどちらかのルールのみが適用されるとしても因習が一つ消えるってことだ!僕たちでどんな因習にも負けない最強の因習を作ってやろう!」

「ジョージ…!そうだな、俺たち二人で最強の因習バトラーになってやろうぜ!」


かくして僕たちは世界を救うため、最強の因習を育てる因習バトラーとなった。日本の因習低レベルデースと言う日まで僕たちの戦いは続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

因習バトルアイランド @guriber

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ