チャラ男のラブコール

「あ、もしもし。おとーさん?」


「なんだこんな時間に。私に何か用か?」


「あーや、そのっ。別に大した用事ってわけでもないっつーか、

 まあどっちかって言うと結構な用事って感じ? そんなわけでさー」


「用があるなら手短に言いなさい。私は今審議中で忙しいのだぞ」


「じゃあ言うわ。おとーさん。実は俺、この前信用取引に

 失敗しちゃってさw 証券会社に払う金が必要なんだわww」


「なんだと……!! おまえはっ、また取引に失敗したのか」


「だってさー。ツイッターでこの株を買ったら絶対もうかるって

 言ってたから仕方なくって感じでよぉ」


「お前に貸したデビットカードを使いなさい。まだ残高があっただろう」


「それがさww全部使っちまったんだ」


「なに……。残高が2000万はあったはずだが」


「あんさーww 実は今回はちょっとぉ、1,500万ほど金が

 必要なんだわ。これさ、期限までに払わないと法務省?ってとこから

 資産差し押さえが来るらしいから結構やばくねwww?」


チャラ男の父、高木議員(真面目)は胃が締め付けられた。

資産の差し押さえの場合、債権者に支払い能力がないとみなされると

次は債権者の身内にまで連絡がいくようになる。

父親は県議会議員である。仮にこの事実が世間に明らかになった場合、

間違いなくマスコミに取り上げられ辞職に追い込まれる。


「この馬鹿垂れが。お前は何度同じ失敗を繰り返したら気がすむのだ。

 あとで真理子に連絡をしておく。お母さんからお金を借りなさい」


「了解っすww あざーっすww おとーさん」


「電話口とはいえ、あまり私を父と呼ぶな。周囲に変な誤解をされたら困る」


「うっすwwじゃあねwwwお金マジあざっす」


電話を切った後、父親はハンカチで脂汗をふいた。

急いで廊下を歩いて会議室に戻る。


「高木君、家族からの電話かね?」


「はっ、申し訳ありません。

 家にいる妻から親の介護のことで相談がありまして」


議長に頭を下げる。間違っても不肖の息子だとは口にできない。

息子が年間で1億も損失を出すトレーダーだとバレたら

彼の議員としての人生は完全に終わりだ。


彼の息子は、一言で言うと最悪だった。

株の信用取引を覚えてからというもの、ひとつの銘柄に1,000万の

お金をつぎ込んでは損切りを繰り返し、また新しい銘柄を買っては

損切りの繰り返し。たまに勝つこともあるが、負けることの方が圧倒的に多い。


父親の高木健一はさいたま市の高級マンションに住んでいるが、

息子のチャラ男は母方の実家である埼玉の田舎に住んでいる。

彼曰く、都会はあまり好まないので大自然に囲まれた状態で暮らしたいとのこと。


お昼の時、彼は食堂でお昼を食べずに休憩所でコーヒーだけを飲んだ。

胃の調子が悪く、固形物が喉を通らないのだ。

息子から電話が来るときは決まってこうなる。

鏡を見ると先週染めたばかりなのにまた白髪が。

ストレスのため頬もすっかりこけてしまっている


(まるで、70過ぎの老人だな) 彼の実年齢は53歳である。


懐から携帯を取り出し、妻の真理子に連絡をする。

息子の無駄遣いが多すぎるせいで現金がどんどん減っていく。

県議会議員の給料をもってしてもその減少速度は寒気がするほどだ。


仕方ないので長年運用していた米国債を決済して現金化することにした。

妻に売り注文を出すように指示をしておいた。妻は電話口でしくしく泣いていた。


この夫婦は、お互いが思っていたけど口にできないことがあった。


「お前(あなたの)の育て方が悪かったからこうなったんだ」

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