チャラ男、コンビニに襲来
「あいーっすwww させん。お弁当。温めてもらっていいすかw
あとマイセン、3ミリっすww」
新田ミカは、不快そうな顔を隠しながらマイルドセブンの煙草を棚から取り出した。
時は2020年の1月の末。
ミカがこのファミマで勤めるようになってから1年が経過しようとしている。
仕事もすっかり覚え、今では後輩の若者を始動する立場だ。
急な欠勤者が出た時は進んでシフトを入れてお店を支えているから、
店長からは感謝の言葉と共に頭を下げられる。
時給は安い。埼玉県の北西部の時給は880円。
営業事務の正社員の時とは比較にならないほどに安いが、その分心は楽だった。
「ありがとうございました。またいらっしゃいませ」
腰を折ったミカが顔を上げるが、まだチャラ男が目の前にいた。
「あの、おねーさん。いつもここで働いてるっすよねww」
「は、はい」
「おねーさんって、この近所の人っすか?」
ナンパだな……とミカは察した。
彼女の場合は学生時代からナンパされた経験があるから察するのは早い。
目の前にいる客は、シュガー元総理の息子に瓜二つであり、
嫌悪感は抱くが恋愛対象になるわけもなく、
「すみませんが、他のお客様が会計の列で待っておりますので」
「んだよ。つめてーな。ちっ。じゃあな」
茶羅男は、レジ袋をプラプラさせながら去っていく。
左右にふらふらと揺れながらと何とも品のない歩き方だ。
ミカは彼の無精ひげを二度と見たくないと思った。
今日のシフトが終わる。
日によって異なるが、ミカは13時から17時までのシフトが多かった。
その次に多いのが17時から22時。
急な欠勤が出た時は上の2種類のシフトを継続して行うこともある。
店長からは「いつもすまないね」と言われるが、
営業事務で22時過ぎまで残業していた頃に比べたらむしろ楽すぎた。
「新田さん。お疲れ様」
「店長、お疲れ様です」
「今日もまかないがあるから、食べてから帰っていいよ」
「はい、では遠慮なく」
ミカは客の前以外では愛想がある方ではない。
その女性らしかぬぶっきらぼうさに従業員はとまどうものだが、
今ではみんなから「生真面目で実直だ」と好印象になっている。
17時を持って消費期限切れになった肉まんやファミチキを食べる。
実家暮らしなので家で母が夕食を作ってくれるが、
撒かないは遠慮なく食べる。夕飯代の節約になるからだ。
家で軽く夕食を食べた後、パソコンでその日の経済ニュースをチェック。
松井証券を開いて自分の口座を見た。
「日経が23,400円か……」かなり上がって来たと思った。
彼女は貯金300万とコンビニで働いた少ない給料を投資に回していた。
保有銘柄は以下である。
ホンダ
キヤノン
ブリジストン
デンソー
三菱ケミカル
住友化学
オリックス
日本製鉄
神戸精銅所
三菱UFJリース(現HCキャピタル)
三菱UFJ銀行
三井住友FG
伊藤忠商事
丸紅
いずれも100株か、あるいは安い銘柄は100を少し超える枚数を持っている。
現金比率はゼロ。配当金を最大化するために全額投資をしていた。
彼女が投資を始めたのは2018年からだから、
大して含み損にもならず、ほとんど株価は横ばいのまま推移していた。
配当は税引前で9万以上は手に入る。
超長期で持とうと思っていたから、NISAには頼らず、全て特定口座で買っていた。
現在は安倍政権のおかげでインバウンド消費が盛り上がっている。
もう少しお金が溜まったらマックなど外食系の優待株を買い、
優待券を使って優雅に食事をしたいと思っていた。
なお、ファミリーマートは伊藤忠商事の子会社である。
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