第3話 復讐話
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仲間の友人が旦那からモラハラを受けていると知り、その証拠を積み上げていくと上司や取引先の悪口まで言っていることが分かった。彼は半ば無理やり彼女の仕事を辞めさせたかと思えば、少しでも家事に不備があると文句を付ける。
「仕事を辞めたくせに、使えない奴だな。お前は愚図で何も出来ない無能だ。つるんでる友人もゴミ同然だしな」
流行りのブログアプリを勝手に覗き、顔がブサイクだ、センスが終わっている、こんなことで承認欲求を満たそうとしてる社会的弱者だと、蔑むことでしか自我を保てない男。
だが、その友人の一人が彼の取引先の関係者であることを偶然知る。知人は少し迷ったが、友人に背中を押されて復讐することを決断する。
とある個室には彼と、取引先の社長が対面で座っていた。彼はお酌をしてから微笑む。
「いやぁ、社長のおかげで私共の生活が成り立っているようなものですね」
「またまた、君は口が上手いね。だが、私は清廉潔白な男が好きだ。思う事を口にするのは自由だが、時に相手や周りのことを考え、偽らない事だと考えている。君はどうかな?」
「それはそれは、社長のおかげで一層真っ直ぐな人間になっております。それに、私は心から思ったことしか言えない性格でして」
「そうか。それは君の妻に対しても?」
「あぁ、もちろんでございますよ」
「清廉潔白であり、真っ直ぐな人間か。さぞ嫁さんを大事にしているのだろう」
「仰る通り、妻は大切にしております」
「そうかそうか。であれば、この写真を見てどう思う?」
彼は渡された写真を手に取り、少し考える。
「これは……それはまあ、魅力的な女性には見えますね。もちろん妻には負けてしまいますが」
「それは私の娘だよ」
「あぁ、左様でしたか。言われてみれば気品のある知的な女性に見えますね。写真からもその魅力が滲み出ております」
「分かってくれて嬉しい限りだ。……が、同時に残念でならないな」
「……と言いますと?」
彼は不思議そうな顔をする。社長は顔を顰めたまま、合図をした。個室の外から声がして、扉が開かれる。
「なんでお前……がここに」
お前、と言ってしまってから油断した、と顔を強張らせる彼。そこには彼の妻と、妻の友人。ブログによく登場していた、彼女の友人であり社長の娘でもある。
そして社長はスマートフォンを掲げて嘆息する。
「一通り聞いたよ。君が彼女、嫁さんにしていた悪行をね。どうやら君の知らないところで、彼女は部屋を録音していたらしい。とても賢い女性だ」
「なっ……!!」
すると彼は一瞬、自宅の時のような鋭く攻撃的な眼差しを彼女に浴びせようとするが、社長の前だからと狼狽する。
そしてもう一人、社長の娘がいることに困惑していて。
「君はまだ気がついていないかもしれないが、随分と娘の悪口も言ってくれたようだ」
そう言って社長は録音を再生する。
『……何だこの女は、下品な服を着て。二人で仲良く撮った動画? 馬鹿みたいにはしゃいで、大の大人が恥ずかしくないのか。二人揃って一般教養のカケラもないんだろう。お前みたいな奴といると俺の格が下がるんだよ。なぁ、いっそのことこの馬鹿女と心中でもしたらどうだ? その方が少しでも反響があるだろうよ……』
流石の彼も、意気消沈だった。
「こういった暴言の数々が、他にもあるようだ。何より私は、娘に向けた言葉を君が認識していなかったことに、一層落胆したよ。写真を見せた時、少しでも思い当たる節があったのなら何か反応するかと思ったが……君は単純に、蔑めさえすれば誰でも良かったという事だ」
「あ、いや、その……」
「清廉潔白とは真逆の人間だったね。当然だが、商談は白紙にさせてもらおう。が、それは担当を変えてもらうまでの話だ。これは御社にもしっかりと報告させてもらう」
彼は真っ青になって、口を開け閉めしていた。彼女は複雑な顔をしていたが、社長の娘は毅然とした顔で彼女を励ましていた。
「とんでもない担当者の化けの皮が剥がれて助かったよ。心配しなくても、この後のフォローはさせてもらう」
結局彼は自主退職を勧められ、会社を去ることになった。同時に、取引先の社長が間に立って離婚の手続きを進め、彼女は無事平穏を取り戻すこととなった。
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