第3話:その少年。内政・外交をゆがめていく


「さきほどは驚きました。殿下はいつ、あのような情報を手に入れておいででしたのでしょうか?」


 財務大臣が王太子に聞く。


「何のことだ。俺はさっき学園から帰ったばかりだぞ? 財務の事か? 知るも何も、全く興味がない」


 王太子は、そっけなく財務大臣の脇を通り自分の部屋に戻っていった。


「照れておいでなのか? 能ある鷹は爪を隠す。皆に隠れて知恵と知識を身につけたのでいよいよ実践に入られたのか。まことに頼もしい限りだ」



 ◇ ◇ ◇ ◇



「賢者の石の作り方を」


 いかにも錬金術をやっていそうな老人が俺の前に座った。

 もちろん「しらないね」と言う。

 しかし出ました、高額紙幣の札束!


 それと共に差し出されたメモには研究過程とデータが書き込まれている。論文レベルだな。


「このような実験をしてきたのじゃが何かが足らぬ」


 俺はパラパラと斜め読みをしてから論文を突っ返す。


「教えてもいいが追加料金だ」

「何を渡せばいい? 金はもうない」

「金ではなく情報だ。マンドラゴラの自生地」


 老人は俺の欲する情報をメモして渡してきたので、俺も論文に足りない部分を伝える。


「この過程で、温度が高すぎる。マイナス三七度以下でないと成功しない」

「そんな低温を維持することなど出来ぬ」

「低温装置の設計図は別料金だ」

「……パトロンと相談してくる」


 パトロンはあの侯爵か。

 ちょっと後押しする情報を流しておこう。きっとさらに金を出して来るだろう、うひゅひゅ。




「仕事だ。また頼む」


 いつもの騎士が伝えてくる。


「今度は?」

「内政会議だ」

「では九千七百ポントだな」

「そんなに高いのか?」

「内政だろ? 収入を上げる方法を教えてやる」


 そんな方法があるものかという顔をしている騎士につられて王宮へ向かった。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 国政会議室。


「皆の者。忌憚ない意見を申せ」


 国王が威厳を保ちつつ会議の開会を宣言。

 だが顔色はさえない。原因は内政不振もあるが昨日食べたサーモンのくん製が原因の腹痛だろう。

 あとでサービスの胃腸薬を送っておこう。

 もちろん販売促進のための試供品だよ。


「オホン。現在我が王国は輸入に頼っている小麦が値上がりする一方、主力の輸出品である革細工と金属製品の売れ行きが低迷。国民の生活苦はもちろんのこと、国庫すら底を尽きかけております」


 皆がうなだれる。

 なっちゃいないな。

『レッドシールド(笑)』だったら降格の上、修行しなおしだ。



「少し良いか?」

「は。王太子殿下にはなにかお考えがおありかな?」


 いじわるそうに商工大臣が薄笑いを浮かべて聞いてくる。

 こいつ、だいぶ陰で王太子の悪口言っている。というよりも第二王子派の首魁。廃嫡を狙っているんだろう。

 ネタは上がっている。


「抜本的に改革する必要があると思う。その前に!」


 俺は商工大臣を指さして、大声で近衛兵に命令した。


「商工大臣を捕縛せよ。この者はファラン帝国の犬に成り下がった痴れ者」

「何をおしゃる! たとえ王太子殿下と言えど証拠もなく大臣であり侯爵である私を……」

「これはなんだ?」


 いつもの騎士に持たせていたカバンから書類の束を取り出しテーブルにぶちまけた。


「なんと! 侯爵は帝国からこのような多額の金品を受け取り」

「帝国の小麦輸入のシェアを高めて、価格操縦を企んでいたと!」

「だ、第二王子に帝国の密偵を侍女として侍らせていると!」

「侯爵は足の水虫が悪化して、更にタムシまでも!」


「どうだ。言い逃れは出来んだろう」

「ううっ。こうなったら帝国秘伝の超人変身薬を!」

「あ。それ、偽物だから。飲んでもタムシが治るだけ。感謝しろ」


 こうして商工大臣は連行されていった。


「さて。ここからは本題だ。このように我が王国は帝国に侵略されている。その一端が内政の悪化だ。すでに浮浪者や低賃金労働者などを装って相当数の帝国国民が移民してきている。

 これらはすべて帝国の命令により一斉に武装蜂起をくわだてている」


 会議室に小さなどよめきが起きる。

 こんなことも知らずに国家を運営しているのか?

 指導者失格だな。


「アルフレート。そなたいつの間に」

「国王陛下。この件は内密に。わたしは密かに、馬鹿王子の仮面の裏で王国のみならず各地に情報網を張り巡らせておりました」


 うそで~す。

 そう思いつつ頭を下げる。


 皆が感心しているのは無視して、内政のみならず外交方針について献策する。


「まずは第一次三か年計画を策定。内政を堅固に。それと同時並行で公安部隊の拡充で帝国の内部浸透をおさえる。

 産業は交易ルートを複数に分散。その過程で近隣の小国との準同盟国化。ゆくゆくは『自由で開かれた太陛洋経済圏』の創設を我が国主導で進める……」


 俺の献策は延々と続いた。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 アルフレート馬鹿王子視点です



 最近、俺に対する視線がむずかゆい。


 三年ほど前、貴族学校に入学した時、あれほど諫言をしていた周りの者が、全くうるさい事を言わなくなり、フランジュを連れてお忍びで街へ出かけても注意されることもなくなった。


 それどころか密かにほめそやすものも多い。

 献上品なども増えて誠に嬉しいが、何かを頼まれてもそんな頭を使うことなど出来ない。


 そういうと不思議そうに引き下がるのだ。

 いったい何が起きているのか?


 まあいい。

 俺はフランジュと幸せに暮らす事だけが望みだ。



 ◇ ◇ ◇ ◇



「大変です! 帝国が宣戦布告してきました!」


 俺の前に座った騎士が叫ぶ。


「お客さん。俺に関係ないことを叫んでもらっても」

「いつものスイッツ銀行に十万ポントを振り込んでいます。どうか!」

「足りないな」

「では! 二十万!」

「昨日ストップ高になった」

「ではいくらに!?」

「青天井だ。時価ということで」


 時価は危険だ。

 俺の仲間内では絶対に使わない価格設定。

 借金ローンの金利などは変動プランだと大変なことになる。


 ということで、俺は王城へ連れていかれた。今回は近衛兵の一個小隊が護衛してくれた。




「帝国は我が王国と同盟しているフォルモサン共和国に宣戦布告してきた。これは我が国への宣戦布告に等しい。フォルモサンを占領されると我が国のシーレーンが」


 参謀総長が説明してきた。

 なんか三年の間に大分頼りにされるようになったが、俺はフリーターだから責任はないぞ。


「で、兵力状況と作戦計画は?」


 知っているけど一応聞いてやる。


「王国軍の総兵力十八万。フォルモサン共和国戦時動員されていますので五十万。

 帝国軍侵攻部隊は、およそ百二十万。

 戦況を左右する制空部隊の竜騎兵の数は、我が方六百騎。

 帝国軍九百騎。他にも海竜が三十騎います」


 だいたい戦力比で敵が二倍か。

 少ない!

 よくこんなんで帝国は戦争始める気になったよな。


 つまりあれだ。

 こっちへ潜入しているスパイが無事だと思っているんだろう。

 みんな裏切ってダブルスパイになっているのに。


 一人一人の秘密を暴き出して、味方に引きずり込んだ。

 ある者は金品。

 ある者は女。

 またある者は戦後の権力が欲しいとか。

 変な奴は引退して小説を書きたいとか。


 最も感心したのは、「部下にしてください」と言ってきた奴だ。

 エントリーシートを書いて来て、プレゼンをしてきた。

 早速、部下にしてダブルスパイの元締めをやらせている。


「王太子よ。そなたのことだ。何か秘策があるのであろう」


 国王が全部、ぶん投げてきやがった。

 こんなだから息子が、ああなるんだよ!


「はい。では……。はるか大海の向こう、大国メリケンコ合州国との秘密条約の準備が整えてございます。あとは国王陛下の玉璽を押すだけにございます」


 おおっ!


 いい加減、俺の献策に慣れていただろう王国指導部の連中がどよめく。


 あのなぁ。

 いい加減、自分たちの頭使ったらどうだ?


 どこかの地方の格言で「指揮官はグータラが良い」とかなんとかがある。

 わかっていても、それを部下に言わせて実行させる。

 これがベストだ。


 こんなものはボースンにちょっとだけ示唆したら、すぐに御膳立てしてくれたよ。


 人材がいないなぁ、この国は。

 そろそろ逃げ出すか。


「ではすぐに条約締結を。それを元にして作戦の練り直しを」


 遅い!


 俺は作戦計画案をテーブルの上にまき散らす。

 それを見た作戦指導部は目を丸くした。


「なんと! 竜騎兵が百五十騎、聖地ワルプルギス山から出陣との約定!」

「それを使っての帝都空襲。それに怒った帝国軍の作戦を変更させて大海の離れ小島を攻めさせる」

「その時に偽電で我が方の準備が整っていないように思わせて……」

「大軍を集結し」

「奇襲し、一気に帝国竜騎兵母艦を撃沈する計画!」


 ちょっと頭を使えば、このくらい簡単に思いつくだろう?

 引っかかる方も馬鹿だと思うけど、帝国の暗号はすでに解読済みだ。


 この世はすべて情報を握った方が勝つように出来ている!



「これでよいと思う。皆の者はどうじゃ」


 国王の発言に、皆頭を下げて同意する。


「ところでアルフレート。こたびはそなたに初陣を申し付ける。大将として帝国を見事打ち払えれば、あの男爵令嬢との結婚を許そう」


 え、えええええ~!?


 初陣?

 俺、戦うのは苦手だよ?

 ケンカに勝ったことない。だいたいケンカする前に勝敗決しているからな。


 それにあのお花畑女と結婚すれば、いやでも替え玉であることがわかっちゃうから。

 断りたい。


「父上……。国王陛下。有難い仰せなれど、わたしは戦に向いておらず。頭のみの男、小心者でございます。とても軍を率いる等……」


「ただ座っておればよい。戦闘指揮は優秀な我が王国軍部が行う故」


 その軍指導部が、優秀じゃないから嫌なんだよ!


「王命である。アルフレートよ。作戦総司令官としてこの大戦を勝利に導け」


 へりょ。

 久しぶりに俺は萎びました。

 逃げられそうもないです。


「……アルフ殿。王太子殿下は皆から気づかれない所に行ってもらいますので、ぜひこのアルバイト、お引き受けくださいませ」


 宰相から頭を下げられた。


 今更だが、戦争の総司令官のアルバイト。

 やったことある人、いないだろうなぁ……


 俺、あくまでフリーターだから。

 責任取らないよ?


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