第2話:その少年。超高額アルバイトを始める
「私の妻が浮気をしている相手が誰かつき留めてくれ」
真面目そうな紳士が真っ青な顔で真剣に聞いてくる。
だが答えはいつものあれ。
「知らないね」
紳士は胸ポケットから高額紙幣を出してきた。
少し足りない。
黙っていると、さらに二枚追加。
「あんたの事務所の秘書だ。週初めの月曜と火曜。あんたがいない午前中にカフェテリア『ランタン』の隣、モテル『ウエスト』の二〇一号室にしけこんでいる」
「な、なぜ知っている!?」
「情報屋を舐めちゃいけねぇ。この国のことは何でも聞いてくれ。支払金額に見合った情報を渡してやる」
紳士は青い顔を今度は真っ赤にしてモテル『ウエスト』に向かっていった。
次の客が座った。
「初仕事だ」
精悍な顔つきの男が剣ダコのある手で紙を渡してくる。
騎士だな。
「その番号の貸金庫に指定された五千ポントが金貨で預けてある」
「わかった」
俺は左右の同業者に挨拶をして店じまいをした。
実入りのいい仕事はワクワクだね。
◇ ◇ ◇ ◇
「王太子殿下。この度はお招きいただいて光栄至極。このハルトゥーン商会。ライトシューズ王国にても手広く商売をさせていただきたく思います」
豪勢な椅子に座った俺の前に、隣国の大商人が挨拶をしている。
この程度の身分の者なら宰相ですら謁見はしないであろう。
だが宰相の言うには、この大商人からの借金が大分かさんでいるという。
情報によれば王国の税制の裏をかいて荒稼ぎをして王国からしぼりとったらしい。
「王太子殿下。この度の拝謁のお礼にと、このようなものを用意いたしました。お気に召されると幸いです」
商人の部下がうやうやしく宝箱をささげて俺に近づいて来た。
フタを開けると多数の宝石がちりばめられた光り輝く黄金の短剣。
ああ、偽物ね。宝石は偽物。多分ガラス玉。黄金は銀との混ぜ物だね。
「王太子殿下の御趣味に合わせたものを作らせてまいりました。是非とも宝物庫の片隅にでも」
が、我慢ならない!
偽の情報を見逃すなど、情報のプロとしてのプライドが許さん!!
「それがその方の王国への忠誠の証というのか? さぞや光り輝く中身のある忠誠なのであろう。よく磨いた偽物も、混ぜ物がしてある貴金属も、目を奪われる出来だ。褒めてやろう」
周りがざわつく。
宰相が額に手を合て天井を仰ぐ。
もうこうなったら徹底的にやってやるさ。
「その方の商会は大分あこぎに稼いでいるようだな。多くのものが泣き寝入りをしているとの報告を受けている。
盗品の扱い。詐欺。奴隷売買。市場価格操作。
まだまだあるぞ。ここでそれを全部あげつらおうか?」
聞いている大商人の顔が一気に青くなる。
「ここは大目に見てやる。だがな。それ相応の対価を支払わせる」
「ど、どんな対価でございましょう」
「王国の借財を棒引きせよ。たしか二億八千六百万八千五百二十二ポントだったか」
周りの者がぎょっとする。
なぜ放蕩王太子がこんな数字を?
「は、はい。ですが、それをなかったことにせよとは、とても……わたくし共の商会が潰れてしまいます」
「そうであろうな。では半額にせよ。そして無利子無期限とする」
「ひぁあああ~」
その場に腰を抜かす大商人。
「ああ。ついでに価格操縦だが。一枚かませよ。今度の小麦収穫の際には……」
うん。
これで俺も儲かるぞ。
大満足のアルバイトだな~。
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