街角で情報屋をやっていたら王太子の代役アルバイトをすることに。給料がウマウマなんですが国王にされそうなんで逃げてもいいっすか?
🅰️天のまにまに
第1話:その少年。最強情報屋!
「災いだ。まさかこの王家に双子の世継ぎが生まれるとは」
長い伝統を誇るライトシューズ王国国王、ライトリウス2世は頭を抱える。
正妃の生んだ長子。
これが男子だったのはいい。
だがこの国の伝説。「世継ぎが双子だと国が亡ぶ」という伝承に、まさか自分の息子が。
「……陛下。わたくしの赤ちゃんは無事でしょうか?」
「あ、ああ。無事だ。かわいい男児だぞ」
国王は侍女に片方の赤ん坊の口をふさがせた。
それで事は済んだはずだった。
しかしその侍女が、その後城勤めを
そして月日がたち、一五年。
大事大事に育てられた王太子は、典型的なお花畑で「おバカな放蕩王子」として貴族学校で陰口を叩かれていた。
そして国王は頭を抱え……
「あの時、もう一人の赤ん坊を王子として選んでおけばよかったのだろうか?」
という考えが、いつまでも頭にこびりついて離れないのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
王太子の通学馬車が大通りを走る。
乗るのはアルフレート王太子。
隣の、身も心も頭もお花畑で儚そうに見える女性と、見ている者が恥ずかしくなる程の甘い時間を過ごしていた。
「アルフレート殿下。わたしが父である男爵様に見つけていただけるまで、平民として暮らしていたのはお話いたしましたけど、実はこの辺りに住んでいたんです」
「ほう。このような下賤な…失敬。治安のよくない場所での暮らし。さぞや大変だったであろう」
「いいえ。子供たちで犯罪から逃げるすべを身につけていました。特に同い年の男の子が何でもできるすごい子で。いつも助けられていました。でももうあのような生活はまっぴら!
そういえば殿下と同じ金髪で、眼の色も同じ」
「ふむ。俺と同い年か。妬けるな。お前の幼馴染み。俺も小さき頃よりおまえを守って過ごしたかった」
「まぁ。無理なことを。一国の王子さまが市井の平民と一緒に暮らすなんて。でもうれしいです。殿下のそのお言葉だけで私の胸はとろけそうでございます」
と、いつものようにイチャイチャ空間は、大通りを貴族学校へと向かうのだった。
そして。
その大通りの端で数名の男たちが朝の掻き入れ時とばかりに、せっせと仕事にはげんでいた。
「旦那。どうです? いつもよりピッカピカでしょう? 最近、よいワックスが入手できたんです」
「そうか。……これは、良い仕事だな。いつもの倍払おう」
「毎度!」
一五歳位の男の子が、後ろに束ねた長い金髪を直す。
「アルフ。今日も頑張るな。にしても、その金髪邪魔じゃねぇか? 短くすればいいものをよ」
「ああ、これね。もうちょっとしたら切って、かつら屋に売るんだ。金髪は高く買ってくれる」
「それで母ちゃんの薬代にするのか? 泣けるねぇ」
男たちは靴磨きだった。
足を置く箱に、仕事道具一式をつめこみ繁華街に出かけ、朝夕の仕事帰りの勤め人が履く革靴の手入れをする。
このアルフという少年はダントツで稼ぎが良い。
どこからか最高品質のワックスや最高級の毛並みのブラシを手に入れてくる。
妬まれずにいるのは、それを惜しげもなく仲間に分けているからだ。
「さて。まだまだ掻き入れ時だ。頑張ろう!」
「最低級のワックスで頼む」
先のお客が席を立った後に座った紳士が、変わったセリフをアルフに寄こしてきた。
「お客さん。そんなワックス、うちにはないね」
紳士は周りの様子を伺いながら、次の言葉を口にした。
「オークランド市の昨日の小麦相場は?」
この男。何を考えているのか?
◇ ◇ ◇ ◇
アルフ視点です。
「オークランド市の昨日の小麦相場は?」
紳士の唐突な質問。
俺はいつものように答えた。
「知らないね」
すると周りを気にしつつ、彼は胸ポケットから小さく折りたたんだ高額紙幣を俺に手渡す。これは相当な実入りになるな、でへへ。
俺も周りの気を配りながら彼の欲することを伝えた。
「現物相場は一プッシェルあたり一ポントと二シリンダ。二カ月先物は一ポント三シリンダ。四カ月先物は……」
規定通りの情報を彼に伝える。さっきの金額じゃ、このくらいが妥当な情報だね。彼は熱心にメモを取っている。
「ありがとう。靴は今日、最高に光っている。感謝する。そこでアフターケアなんだが」
そこまでは出来ないね。
そ知らぬふりをしている俺に、一〇枚以上の高額紙幣が提示された。
うん。このくらいなら教えてもいいかな。
「俺の想定では、今後週足はゴールデンクロス。明日はパーフェクトオーダー」
「お前が言うのなら間違いないだろう。これで当てたら何勝何敗だ?」
「今、九九勝一分け」
「……明日は財産の半分を賭けてみようか」
「保証は致しかねます。保証が必要な場合は更に追加料金を」
「大したやつだぜ、情報屋。また来週な」
彼もこれで中堅投資家から、一躍大投資家になるかもね。
俺の名前は出さないとの約束だが、俺から放れられなくなるだろう。また一人コネを作った。
稼ぎのネタが増えた。
うれし~ねぇ。
こうして今日の仕事は終わりを告げた。
「かあさん。今帰っ……」
家に帰ると、粗末なベッドの上に横たわっていた母さんの周りに、お城の騎士二人と兵隊が立っていた。
「正妃付き元侍女アリア。おまえは一五年前、恐れ多くも国王陛下の嫡子を誘拐。ここに幽閉していたと判明した。素直に罪状を認め王子を引き渡してもらおう」
何を言っている?
疑問符を周り中にピュンピュンと放っている俺を後ろから引っ張る腕。強引に外へ連れ出された。
「シッ。アルフ、黙っていてごめん。お前の出自はすでに大分前に調べがついていたんだけど、お前は母さんが一番大事。王族とかかわるとろくなことはないと黙っていた」
「どゆこと?」
と言いつつも、なんとなく察した。
これでも王国の事については、ほとんど知っている。
この王国の王族が双子を忌み嫌っていて、今の王太子とおなじ年齢の俺がいる。そこに騎士が来てさっきの話。
「実は俺が王太子と兄弟な訳ね」
「さすがアルフ。察しがいいな。それでこそ俺達、世界支配を企む秘密結社『レッドシールド(笑)』の総帥だ」
『レッドシールド(笑)』とは、俺達下町の子供たちが遊びで作った集団だ。
でもいつの間にか影に隠れて情報を集め、それを使い資金を集めて人材育成・救民活動をする巨大機関になった。
元々は俺が作り出したグループだ。何をするよりも情報を売ることが効率的。元手はいらないからな。
今は、この兄貴格のボースンがリーダーとして取り仕切っている。母さんの病気が重くなって、看病に時間が必要になったためだ。
そこで時間の余裕があって、それでも稼ぎのいい靴磨き、いや情報屋をしている。
「……何も知らないです。見逃して……ゴフッ、ゲフッ」
母さんがむせた。
この前は、むせて死にそうになっていた。早く喉のつまりものを取らないと!
「母さん! 大丈夫だよ。僕はここだ。早く下を向いて!」
ボースンの止めるのを振り切り、家の中へ入った。
母さんのベッドに近寄り、背中をさする俺の後ろで騎士がひそひそと打ち合わせをしてから俺に声をかけて来た。
「靴磨きアルフ。王命である。王宮に出頭せよ」
これは逃げられないな。
俺は連行されながら、この先どのように立ち回ればいいかを考えていた。
◇ ◇ ◇ ◇
「陛下に謁見する前に、アルフお前に選択肢を与えよう」
宰相と名乗る侯爵が提案をしてきた。
「このまま陛下の御前にでれば、多分秘密裏に処刑されるであろう。陛下は伝統、伝説をことのほか気にする方だ。どうやらそのオッドアイと金髪。まぎれもなく王太子殿下の弟。顔もそっくりだ。
災いが起こる前に処分されるのは必至。
そこでだが……」
なかなか曲者の表情で宰相は俺にこういった。
「アルバイトをしないか? 王太子の代役だ。あの出来の悪い王太子が失敗しそうな時の代役として」
「なんで俺、いや僕? 下町の子倅なので王族の代役なんかできませんが」
「座っているだけでよい。何もしゃべらず、ただ頷いているだけでよいのだ。本物の王太子がしけこんでいる時……いや、いないときに」
放蕩息子に相当困っているんだな、家臣一同。
疲労の色が濃いぜ、宰相殿。今度最高級の胃薬を調達してくるから頑張れ。
あ、請求書はどこに出せばいいかな?
「仕方ありませんね。単なるマネキンでいいのなら引き受けましょう」
「おお。それは助かる。よろしく頼む」
「で、給金ですが、こんな具合でいかがでしょう?」
俺は東洋から伝わった計算道具の玉をはじいて、アルバイト料金を算定する。
「た、高いではないか!」
「これが相場です」
「そんな相場があってたまるものか」
「これからどんどん市場価格が高くなる予想です」
「……」
こうして俺は職を得た。
王太子の代役。
これをアルバイトですることになった。
美味しい給料だね。
どんどん釣り上げてやる、でゅふふ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます