第四夜
生贄を、と誰かが言った。ソン殿が死体で発見され、それがあまりにも酷い状態であったと伝えられたのは今朝方のことであった。
儀式の遂行を、といらえがある。村内会議でのことで、私はただそれをぼうと見ていた。
はなささげを。 花捧げを。
水神様へ、花捧げを。
村内の熱気は最高潮に達し、なんか語呂がいいのでもはやそれしかあるまいとアガりまくっている周囲に微笑み、頷いた。
「それでは、私が贄となりましょう」
「ええんか兄ちゃん。別に今からラップバトルで決めてもええんよ」
「いやまぁ、歌詞的に」
なんとなく、こうなることはよくよく推測された。どうしてか私はこの展開を知っている気がする。死への恐怖はなく、吊り上げられる屈辱もなく、私はええ、と頷いた。
「私は儀式の盛り上げ役には向きませんし、ソン殿の代表曲も知り得ません。でしたら、こちらが適任ではないかと」
私の言葉に村民は心動かされた様子で、では早速贄の儀式を始めようと動き、困り果てた。なんと、儀式の仕方がわからないのである。
春の、夜か昼かくらいのどこかでどこかに私を吊るすらしい。しかしまず吊るし方がわからない。
私もいくつか推測できるものはあげていったが。村長の手記もほとんどキャンプファイヤーの材料となっており、詳しくはわからない。
とりあえずまぁ一番高いとこに吊るしとくか……となったは良いものの、上まで上がるのが大変だったため断念し、じゃあ海に近いところでいっかと吊るし台ができた。
何もかも完成した頃にはすでに日暮れを迎え、遅れているといけないからと早速吊るされることになった。向こうが殺すのこっちが勝手に死ぬのかよくわからなかったので胴体に縄を巻きつけ、滑車の要領で持ち上げられる。夜になると足首がつかるほどに潮が満ちるらしい。
ばっしゃばっしゃと海水を跳ねさせせめてもの手向けにとスマホで睡蓮花を流して行く村人たちに一つ礼をして、私は目を閉じた。
あの洞窟で、目が覚める。
ここは水神の口内である、と私は知っていた。
私は死体置き場のような場所で、目が覚めた。頭が弾け飛んだ少女と、三つ折りにされたソン殿が隣に眠っている。起き上がった私の足元には、たくさんの死体が積み上がり眠っていた。
そんな状況となっても私の心は動くことがない。狂ってしまったのだろうか、と嘆かわしく思う。いつから狂っていたのかなんて、詮索しても詮無いことだ。もう狂ったものは戻りはしない。
ちがう、と深く地面を這うような声がした。あらぬ方向へ三つ折りにされたソン殿の、うろのような口がはくはくとうごいた。
ちがう、ちがう、とどこもかしこもそう合唱する。ちがう、ちがう、ちがう。
「何が違うのですか?」
もはや口のないはずの少女が、答えを返した。
にくは……ちがう……
ばななとかがいい…………
ふわり、と心臓が浮き上がる心地がする。目が覚めるのだと思い至った。
しかし違うと言われても。
「次の私はきっと、覚えていませんよ。どうすれば?」
目が覚める寸前、耳元ではっきりと声がした。
──気合いで
「気合いですか」
そうして私は、目を開けた。
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