第三夜

翌日目を覚ますと、昨日の昼、そして夜に出会った少女が死体となって発見されていた。

そのため今日は少女を見送る会として、宴会が開かれるらしい。葬式はどうするのだと聞けば、彼女のアレンジ曲とともに、棺におさめ海に流すという。


「ここには古くから水神様がおわすとされていましてな。もう迷信でしょうが……水葬はわしらの伝統なのです」

「そうだったのですね。彼女には私も昨日、お世話になりました。花を手向けても?」

「旅人殿に送ってもらえるのなら、あの子も喜びます」


自分は何も持たないから、島の中心にある山へ分け入り、綺麗な花を二、三本摘んでくる。真っ白な棺に死体となった少女が入っている。首から上が無く、これも伝統なのかと聞けばそうではない、と返ってきた。


「この子はな、今朝……頭が弾け飛んだ状態で、発見されたんです」

「頭、が……?」

「原因不明らしいですが……」


それは随分、凄惨な死に様だ。言葉を失う私にソン殿はずいぶん派手でしょう、と続ける。さらに風土病なのではないかと。


「本州でそんな死に様があり得るのかと思えど、私のアカウントはもうバンされていますでな」

「そうだったのですか……すみません。自分に記憶があれば、何かわかったと思うのですが」

「いやいや謝らんでください。弔ってくれただけで十分ですじゃ」


ぱたん、と棺桶の扉が閉まる。真っ白な棺。綺麗に細工が施されたそれにつく、ラジカセ置きに彼女のラジカセをがちゃんと設置して、海に流すこととなった。


さぁ、と爽やかな海風が吹き上げる。あおい、ネモフィラを抽出した、その上澄みみたいな空の色だった。ゆったりと広い海に彼女の棺が流れ出て、やがて見えなくなる。

後にはただ、数え歌だけが残された。


ひとつ、ひとよによそものよばれくる

ふたつ、ふたよははなびあげ

みっつ、みつおりあなのそこ

よっつ、よそものつりあげる

すいじんさまのはなささげ

すいじんさまのはなささげ


どこかで聞いたことのあるような、懐かしい響きの歌だった。





その夜。

目を覚ませば洞窟の中だった。いいや、洞窟ではないのだろう。もはやこれを誤魔化す意味すら感じられない。

何か巨大な、巨大な生き物の口の中。私は今日も目を覚ました。穏やかな南国の島、これこそが夢なのではないかとすら思える。


四肢はあり、立ち上がる。なにかの口内は灯りもないというのに煌々と明るく、探索することにも歩行するのにも何ら支障はないらしい。私は周囲を見回し、何もないことを確認してから、奥へ進む。壁面にベッタリと貼り付けられた、人間の形をした肉塊たちが、恨みがましげにコチラを見た気がする。


と、そうやって私が歩みを進めていると、前方に見覚えのある人影が見えた。


「ソン殿」


声を上げる。そちらへ行ってはなりませんよ。

しかし続きは言葉にならず、声も届いていないようだった。仕方がないので追いかけようと歩みを進めると、一定の場所で身体が硬直した。

昨日の、少女を見かけた時と同じだと直感する。


しかし昨日と違うのは、私はすっかりソン殿の呟きを拾えるほど近くに居たということだ。


「ちがうちがうちがうちがうちがう…………」


ソン殿はただそれだけをぶつぶつと呟き、歩みを進めているらしい。流石に尋常ではない。私は思わず歩みを止めた。


すると、またあの感覚がする。心臓が持ち上がる。目が覚めるのだと理解して、ソン殿を見やる。先程まであんなに近くに居たソン殿は、すっかり見えなくなっていた。

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