第二夜
一日目はソン殿の家の玄関に泊めてもらい、二日目の朝を迎えた。今日から本州に帰る手段を探るつもりだ。ちなみにこの島はとっくに外部との通信が途絶していて、使えるのがインスタとティックトックだけという状況らしい。
自分はスマートフォンを持ち歩かない主義らしく、どこを探してもなかったので、ソン殿に自撮り写真を上げてもらい知り合いを見つけることにした。
村の散策という体で出歩いていると、学生数人を見つけた。村近くの砂浜でビーチバレーをしているようで、近くに置かれたラジカセからは昨日聞いた数え歌のアレンジらしきものが流れている。
「あら、あなた昨日来た余所者じゃない。混ざる?」
「折角ですが遠慮しておきます。村を見て回りたいので」
観戦していた少女がフランクに誘ってくれたが丁重に断って、ラジカセを指差す。
「それより、これは?」
「ああ、その歌ね」
「この村に伝わるイカした数え歌だぜ!」
背後から急に肩を組まれ、一瞬驚いたもののそうですが、と頷いておく。肩を組んできた少年は、この村に伝わるという伝説を詳しく説明してくれた。
「春の日が暮れる前か夜明けどきかのどっちかに、二、三日くらい連続で生贄を捧げる、っつー風習があんだよ」
「そんな風習が……?」
「今は多分廃れてるけどな! その歌は儀式の一部……? かトリセツ……? みたいなやつなんだぜ」
生贄とは随分穏やかではない。身構える私に、少年は笑ってバシバシと背中を叩く。ここ数年か数十年か多分されてない風習らしい。
数え歌はラジカセからひたすらビートを刻んで流れている。昨日聞いたものは少し違う雰囲気だったと言えば、少女がそりゃそうよと応えを返す。
「数え歌はみんな知ってるから、各々でアレンジ曲を出してるの。これは私がアレンジした分ね。一年に一回必ずどこかで流行り始めるから、成人の儀式に最高にノれるアレンジ曲を出す試練があるほどなの」
「おや、では貴女は……」
「あたしはまだ学生よ! これはデモ版」
でもコイツ、めちゃくちゃ腕が良いんだぜと隣の少年が言うので、そうでしょうねと同意を返した。
「残念ながら私には、ビートや、音楽のノり方の記憶がありません……ですがそれでも、よいリズムだと思います」
「まぁ、あなた記憶喪失なの?」
「そりゃ大変だなあんた! 俺で良けりゃ手伝おうか!」
「よろしいのですか?」
親切な少年少女にビートを魂に刻んでもらい、その日の夜は更けていった。
ぴちょん、と何かが滴る音で目を覚ます。
昨日もきた洞窟に、どうやら今夜も紛れ込んでしまったようだ。寒いと思っていた洞窟内部は温かく湿っていて、地面は少しざらざらしていた。
目と鼻の先程度しか見えなかった洞窟は、かなり薄暗いという程度に変わっており、探索には難儀するだろうけれど、歩行には問題ないことがわかる。
しかしそうまでして変わっていても、ここが昨夜の洞窟であるというのはよく分かった。
ぴちょん、ぴちょん、とどこからか何かの滴り落ちる音が聞こえてくる。これが水滴の音なんかでない事は、教えられずとも知っている。しかしここは洞窟である。そう定義する。
誰かが奥に、歩いて行く。そういう気配がする。
洞窟のうろのほうを見れば、昼間に出会った少女がふらふら、何らかを呟きながらうろへ近寄っていた。
「おや、そちらへ……」
行ってはいけませんよ。
そう呟いて手を伸ばそうとするが、ある程度行くと体が硬直する。少女の元へは辿り着けず、彼女は茫洋とした瞳のままでうろの奥へ奥へと進んでいった。
体が、心臓が持ち上げられる感覚が突如として私を襲う。少女の小さくなる背を見送りながら、私は目を覚ました。
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