第3話

私はそのまま待った。

坂口が何か言うのを。

待っていると、やがて坂口が言った。

「それ、事件性という点で言えば、あるともないとも言えんなあ。と言うことは、事件性がある可能性もあるわけだな。それほど高くはないとは思うが、死体が埋まっていると言う可能性も、ないとは言い切れないようだな」

「それで、どうする」

「案内してくれ」

「その場所へか」

「そうだ。行ってみよう。もちろんその穴を掘るんだ。俺は刑事だから、事件性があると思えるところを掘ったとしても、なんの問題もない。鑑識とか応援は、掘ってみて、結果を見てからのことだな。それに刑事と言う以前に、その穴に何が埋まっているのか、非常に興味があるな」

その興味なら、私にも充分すぎるくらいある。

「わかった。案内しよう」

「いつがいい。できれば早いに越したことはない。なんだかの事件だとしたら、早ければ早い方がいい」

「明日はどうだ。週末で私は仕事が休みだし」

「明日か。いいな。俺が迎えにいくから。早朝になるけどいいか。それと引っ越しをしたとは聞いていないが、住んでいるところは前と同じだろうな」

「引っ越しはしてないさ。前と同じところに住んでるよ。早朝だな。わかった。待ってるから」

「決まったな。それでは明日早朝に行くからな」

電話は切られた。

明日数年ぶりに会う幼なじみと、山に入って見知らぬ男が掘って埋めた穴を、掘り返すのだ。

実際に掘るのは坂口一人で、私は見ているだけになるのだろうが。

そんなことは関係なく、あの穴の中になにが埋められているのかがわかるのは、たいそう喜ばしいことだ。

なにせこのところずっと、それで頭を悩ませていたのだから。

知ればこのもやもやもすっきりとすることだろう。


坂口が来たのは、朝の五時過ぎだった。

早朝とは言っていたが、思っていたよりも早い。

この時期、外はまだ薄暗い。

坂口は運転席に座ったままで、窓を開けて言った。

「来たぞ。さっそく行こうか。俺の車で行くから、案内を頼む」

「わかった」

坂口の車に乗り込み山へとむかう。

山道の少し開けた場所で、車を停めた。

「ここからは歩きだ」

「わかった」

坂口は車からジャベルを取り出した。

普段見るシャベルよりも少し大きめで、ある意味中途半端な大きさだ。

こんなものはどこに売っているのだろうか。

そんなことを考えていると、坂口が言った。

「行くんだろう。先に行ってくれよ。案内人さん」

私が先に歩き、坂口がついてくる。


それほど遠くはない場所だ。

二十分ほど山の中を歩くと着いた。

「ここか」

「ここだ」

山の一部の土が、長方形に色が変わっている。

そこには草も生えていない。

誰が見ても一目でわかる。

埋められたばかりの穴だ。

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