第18話
「アルス、こっちだ。」
俺は、ノアの後ろでついて行く。
「どうやって、取り返すか考えているのか?」
「とりあえず、話し合ってみようと思う。殺すなんて脅しをかける人がまともに取り合ってくれるとは思わないけどね。」
(ふーん、甘いな。)
「俺もとりあえずはそれがいいと思うぜ。」
「そう言ってくれて嬉しいよ。もし戦闘になったとしても僕がやるよ。」
「おーけー」
そんなこんなで目的地に着いた。アイナー子爵家、子爵家でありながら結構儲けているらしい。
「お待ちくだされ。どちら様でしょうか?うちの当主にアポはとってありますか?」
「い、いえ。僕は…」
「俺は、アルス・フォン・オルレアン。当主に伝えろ。」
「ひっ、わ、分かりました。お待ちください」
そうして、守衛は屋敷の方へと走っていく。
「貴族ってのは横の繋がりが大事だからな。使えるもんは使う。」
「まぁ、スムーズにいけて助かったよ…」
しばらくすれば、守衛が戻ってきて許可を貰えた。
(今のこいつはどんなもんかね。)
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
【side ノア】
子爵家に入れば、すぐに当主の元へと案内される。子爵は隣に幼い娘を置いている。
(この娘か…)
「これは、これはアルス様、と巷で有名な探偵様ではありませんか。」
「えぇ、担当直入に申しますと、あなたが買い取ったというその娘を返してもらいたいのです。」
「なるほど。ですが、あれは身内の方の同意の元行ったものであり、返品をする筋合いなんてものはございません。」
「脅しにかけて…でしょう?それに、定められた養子の契約または、奴隷の契約。そんなものは行っていないでしょう?」
………
……
…
「これは、法に触れる行為です。大人しく返して貰いましょうか。」
「ふむ、答えはノーだ。」
(魔力解放!?)
「続きは地下で…」
ドカンと地面が割れる。
「アルスその娘を頼む!」
「はいよぉ、(よこせ、子爵)」
――子爵家地下
そこは広い空間だった。そして、規則的に柱が存在している。聞こえてくるのは、どこかで、水滴が落ちる音だけ。広く静かな空間だった。
「護衛を呼ばなくて良かったんですか?貴族様?」
「ふん、噂の助手もいないようですし、あなたのようなガキ一人、大したこともない。」
水の槍が飛んでくる。
(見えてるよ。)
僕も魔法で応戦する。僕の強みはこの魔眼により、魔力量を抑えて魔法を扱うことが出来る効率の良さ。
「ウィンドカッター」
とりあえず、ウィンドカッターを20発程度飛ばす。が、相手もなかなか強い。爆風で全てを打ち消された。
(相手は中級魔法まで使用可能といったところか…)
「その程度ですかな、探偵さん?それにしても魔眼持ちとはこれは珍しい。」
くっ、僕じゃダメージを与えられない。全てはレイカさんがいたから、上手くいっていたんだ。
そこから、中級魔法に対して防御の術がない僕はダメージを受けながらも、回避に専念する。
「く、このままじゃ死ぬぞ…。」
瞬間、僕の目の前に爆風が映る。
「はっ」
(ダメだ。僕じゃ、相手にならない…)
「おい、ノア。変われ。雑魚が…その目ん玉の使い方から学び直せ。」
「ア、アルス…」
そこからは、一瞬だった。
アルスが迫り来る魔法は全て弾き、瞬き数回の間にアルスとあいつの距離は近づいていった。
(ひとつひとつの動きが綺麗だ…洗練されている。アルスの動きを見ていると、レイカさんの動きはスペックのゴリ押しで戦っていたように見える。)
「はっ!アルス殺しちゃダメだよ!房に入れて、罪を償って貰わなくちゃ。」
「…ノア、甘いんだよ。こいつはここで殺す。」
「え?」
スパッ
首が落ちる。血が吹き出す。死体は地面に倒れる。
「ぐすん、ぐすん。おにーちゃーん、こわぁーい。」
と言って、ヘイミーの妹が抱きついてくる。
「なぁ、ノア。ひとつ教えてやる。お前が、罪を償ってもらおうと房へとぶち込む行為。そんなのは、全くもって意味がない。」
「え?そんなことない。人は必ず更生できるはずだ!」
「房送りとなった犯罪者はそのことごとくが、自殺、奴隷落ち、貴族の玩具となっている。どうだ?ここで、スパッと死んだ方が楽だろ。それに、そいつらを見せしめにすれば犯罪の抑止力にもなる。」
でも、そこで死んでしまったら罪を償うことなく終わりになってしまう。けれど、そんな結末になるなら、ここで殺してあげた方がいいのか?
「なぁ、ノア。親友として忠告してやる。そんな甘い考えじゃ、ほんとに大事なもんが守れなくなるぞ。」
僕は…僕は…ずっとレイカさんに頼りきりで…
「ノア、そう難しく考える必要はないんだ。そこら中に、何も考えずにアリを踏み潰す奴がいるだろ。ただ、そのアリが大きくなっただけだ。何も考えなくていい。」
(違う、アルスの考えは間違っている。どんな理由があっても殺人なんていけない。)
「まぁ、これは俺の意見だし、さっきの例えも悪かった。さすがに、そこまでの思考は俺も持っていない。お前のやりたいようにやれ。それが一番だ。」
そうだな。正解なんてないんだ…
「はぁー、忠告ありがとう。それに、助けてくれてありがとう。とりあえず、この娘を家に届けることにするよ。じゃあ、帰ろうか。」
「うん!お兄ちゃん!そっちのお兄ちゃんはなんか怖い…から嫌だ!」
「ノアは先に馬車で帰れよ。俺がここの処理はしておく。貴族の権力で何とかしとくわ。」
「何から、何までありがとな…」
今回の事件はトリックも仕掛けも何もなかったけれど、自分の弱さを改めて実感できた。僕はやっぱり人は殺したくない。でも、アルスの言っていることも確かなんだろうな…
――Mystery file 1 : 家族 「解決」――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます