第5話

 最近、街で起きてる連続殺人事件。これに俺も少し絡もうと思っている。やることは至ってシンプルだ。適当なところから女性の胸に向かって狙撃する。俺の実力なら余裕だ。


 だが、狙撃プランに関しては、一つ問題があった。刺さった矢をどうしようかということだ。魔道具を用いて殺害後は消し去る方法を思いついたが、魔力が残ってしまう。それでは、他の死体と状況が一緒。それどころか、魔力の流れで介入がバレてしまうかもしれない。だから、魔道具は論外だ。


 それなら、どうしようかというと、水に触れると消えてなくなる物質で矢を作り、それを放つことにした。そうすれば、殺害した後に雨が降れば完璧に消える。雨が降らなくても、血液で消え去るだろうけどな。


 そんな特別製の矢を誰が作るのかといえば、俺がサクッと作った。もし、作りが脆くて殺害に失敗したとしても、ただのノアに対するちょっかいだし問題は無い。矢の素材は、どこからから購入するとそこから嗅ぎつけるかもしれないので、こっそり自分で採りに行った。


 魔力の流れがない死体があれば、ノアはそれに対して何か思うだろう。しかし、俺が犯人なんてバレることはない。あいつは世界一の名探偵なんで呼ばれてはいるが、それは優秀な魔眼と優秀な助手によるものが大きい。あいつの推理力は魔力が見えるからこその推理力だ。それが分からなければ、どうすることも出来ない。それに、「ノアにちょっかいをかけたい」なんて動機も見抜けるはずがない。


「完・全・犯・罪!なんてね…」


 ノアは明日か明後日くらいから、調査を始めるだろう。今日から明日にかけての深夜帯に作戦開始だ。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 時は来た。

 俺は、今、街全体を囲う城壁の外側の森にいる。ここから、狙撃をするつもりだ。


「さてさて、誰かいるかなーっと。」


 見つけた。

 年は13歳くらいか。茶髪ショートカット、ゲーム内世界だけあって美形だ。

 俺は弓の弦に手をかける。


「じゃあな。俺の物語の踏み台になってくれ。」


 ここで、俺は気付く。


「あっ、あいつノアのヒロインだ。NTRしなきゃいけないから、殺っちゃダメだ。危ねぇ。」


 俺は、標的を変えた。


「じゃあ、あの女でいいか。」


 俺が放った矢は、狙い通り女の胸に突き刺さった。血液に濡れたところは消えて無くなったが、少し残ってる。あとは、雨が降るのを祈るだけだ。


 俺は、前世も今世も含めて初めて人を殺した。


「こんなもんか…」


 思ったより、つまらなかった。一方的な殺人だったしな。


「帰って、寝よ…」


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 屋敷の部屋にこっそりと窓から戻った俺は、ベットに飛び込んだ。深夜帯に貴族のご子息様の部屋に入ってくる奴なんていないから、ちょくちょく外出しているがバレたことは無い。


 ベッドの中で思考を巡らせる。


 さっきのヒロイン。

 平民のヒロインのヘイミーだっけな。平民だからヘイミー…

 安直だな。


 確か、ノアに家族を助けて貰ってから懐くようになる設定だった記憶がある。


「あー、NTRじゃなくて家族を目の前で殺してやるのもいいなぁ。まぁ、本編開始までまだまだ時間がはあるし、本編始まってから考えるか。」


 ノアがヒロインと仲良くなってからじゃないと、アクションは起こせないしな。


 俺は安らかに眠りについた。

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