或る常夏の手帳

本垢女子

第1話

 これは、筆者が偶然にも某市の海岸で拾った手帳、その内容を一部抜粋したものである。

 この手帳を拾う数週間前、丁度某市で20代前半の男女グループが海上にて失踪する事件が発生した事もあり、私はこの手帳を公開せざるを得なかったのである。


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今、これを読んでいる誰かに警告する。

□□□□島には絶対に近づくな、もし漂着してしまった時は即刻自殺する事を勧める。

私もこの手帳を書き終えたら死ぬつもりだ。


 事は私がX市沖に遊びに行こうと言い出したのに端を発するだろう。Y大學の行楽サークルに招集をかけ、私を含め六人の男女がX市から船を出し出航した。

 航海は免許を持っている高田が行うことになり、私達五人は海の景色を楽しんでいた。しかし、出航してから数時間後。私達は嵐に巻き込まれた。

 私達は必死になって船にしがみついた。結果的には誰も死ななかったのだが、それが現状の私を恐怖させている原因の一つであった。

 嵐が晴れ、視界がハッキリとしてくると遠くの方に或る島が確かに見えた。その場にいた全員がそれを見たと思う。その島を望遠鏡で覗いてみれば、白地の旗に「Welcome to INSYU」と書かれたものがポツリと島に刺さっていた。

 メンバーの一人、中村が「助けて貰おう」と言い出した。当然の判断だ、私達が乗っていた船はもはや風前の灯であったのだから。

 船を漕ぎ着けると、原住民と思わしき人々がアロハシャツにサングラス、それに戯けたステテコなどを履いて私達を出迎えた。メンバーの中で最もパーティーが好きな矢島は上機嫌で彼らに応えた。


「ウェイ系の漂着者じゃ〜ん!イイネ!」

「うぇいうぇいうぇ〜い!そーなんよ、オレら漂流しちゃってサァ、助けてくんね?」


 矢島の軽いノリに応える原住民。私達も一応世間一般では『陽キャ』という区切りに属している為、私らも迎合する事が出来た。

 原住民の中で私達を一番気にしていたのは島村という男だった。どうやら、彼は一番若い島民らしく私達に興味津々な様子だった。

 島村は村があるという場所まで私達を案内した。その間、島村は私達の話を熱心に聞き、些かオーバーとも取れるようなリアクションを交えつつコミュニケーションをとった。私達は、矢島をはじめとしてすっかり島村の事を信用してしまった。

 これが後に禍を呼ぶ事になるとは、当時の私には想像もつかなかった。


「ここが村だぜ、イカしてるだろ?」


 そこは村と呼ぶには余りにも現代チックで、尚且つ騒がしかった。

 私達の目に入ったのは、これでもかとばかりに光り輝く巨大なミラーボール。それに群がり踊る群衆。縦ノリのBGMが流れ、編み物をしながらヘッドバンキングする女達。発酵酒を浴びるように飲む男達。隅の方では男女が酒池肉林の嬌声を上げている。

「何だ…これ。最高じゃん……」

 矢島は既にこの島の魔力に取り込まれていたのだろう。彼は服を脱ぎ、酒池肉林の一座に加わってしまった。

「矢島ぁ、お前程々にしておけよ」

 良識のある引率の緑川先輩が矢島を諫める。しかし当の矢島は腰を振るのに必死な様子で、もはや人ではなくなっていた。

 島村は肩をすくめると、私達を島唯一の来客用の小屋へ案内して言った。

「もうすぐ様が来るから、お前達は身を清めておくと良いぞ」

 様について聞く余裕も無く、島村は急ぎ足で外へ行ってしまった。この時、私が島村を引き留めていたら。こんな結末にはならなかったかも知れない。

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