君からのエール
鳴神とむ
第1話
僕は売れない漫画家だ。
一年前に描いた漫画が運良く新人賞を取り、僕は漫画家にデビューした。
ジャンルは恋愛。
まともに恋愛したことないくせに、だ。
妄想で描いた恋愛漫画はやっぱり続かない。日に日にネタがなくなって、僕の人気は落ちていった。
ファンレターが一通も来ない。
もう担当さんにも、編集部にも呆れられている。
「代わりはいくらでもいるんだ」
面白い漫画が描けなければ、この業界では生きていけない。
それでもどうして、僕は漫画を描き続けているんだろう。
悔しいから?
もったいないから?
人気が欲しいため?
わからない……
僕はネタ探しに公園に出かけた。
ベンチに腰掛けると、周りの風景を見渡す。
緑の芝生と、青い空しか見えない。
誰もいない、僕一人だ。
僕の声は誰にも届かない。
誰も見てくれない。
僕の漫画はたくさんの漫画に埋もれて、誰の目にも届かないんだ。
寂しい……
寂しい、寂しい、寂しい……
負の感情が溢れてくる。
全てを吐き出したくて、僕は走った。
走って走って、自宅に戻って来週締め切りの原稿を持って、また公園に行く。
僕は15ページ分の原稿用紙を、天高く放り投げた。原稿用紙はバラバラと宙に舞い、あちこちに散らばった。
そして原稿用紙が散らばる芝生の上に、大の字になって寝転んだ。何事かと、誰かが僕の原稿用紙を拾うのを期待して……。
いつの間にか僕は寝ていた。
人の気配を感じて目を開けると、青い空とひとりの少女の姿が見えた。
「!」
僕は慌てて起き上がる。
少女はどこかの学校の制服を着ていた。
高校生だろうか?
見ると、その手には僕の原稿用紙があった。
「最後の一枚あった」
彼女はそう言い、僕の背中部分に落ちていた原稿用紙を拾った。彼女は僕に話しかけることもなく、無言で原稿用紙を見ている。
そして15ページ分の原稿用紙を揃えて芝生の上に置いた。
「……どうだった?」
僕は彼女の反応が知りたくて、声をかけた。
「おもしろくなかった」
無表情ではっきりと答える彼女。
やっぱり……と、僕は落ち込んだ。
「お兄さん、おもしろいことしてるのに、つまんない漫画描くんだね」
「……なっ……しょうがないだろ、僕には才能がないんだから……」
僕は彼女に言い訳した。
すると彼女はフッと笑って、
「才能って関係ないと思う。自分がおもしろいと思わなきゃ、読む人だっておもしろくないと思うよ。テレビでめっちゃ美味しそうにケーキ食べてる芸能人がいたら、めっちゃ食べたいと思うでしょ? 目の前の人が笑ってたら、いつの間にか釣られて自分も笑ってるでしょ?
そういうもんなんじゃない?」
そう言った彼女の姿はキラキラ輝いていた。
そして妙に彼女の言葉に納得させられた。
「……うん、そうかな……そうかも……」
「お兄さん、漫画家なの?」
「うん、一応ね……」
「へぇ~じゃあ、あたし、ファンになるよ!」
彼女はそう言って、ニコッと笑った。
「なんで? おもしろくなかったんでしょ?」
「漫画はね。だけど、お兄さんがおもしろいから!」
僕自身が?
「僕のファン?」
「うん! またおもしろいことやってね!」
彼女のとびきりの笑顔に、僕はときめいた。思わず顔が緩んで笑うと、彼女はフフッと笑った。
「ほら、釣られた」
……ほんとだ。
笑顔も、気持ちも、伝染するのだ。
なんだか今なら描けそうな気がする。
彼女の言葉が、エールが、僕の心に届いたから。
ねぇ、またつまずいたら、
君のエールを聞かせてよ……。
君からのエール 鳴神とむ @kurutom
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