ステータスを確認

 なんとか事態も飲み込めて落ち着いたところで、かおゆきがカラーに声を掛ける。

「さて、もう一度ログインしますか?」

「はーい、お願いしますー」

「ええ。では、お気をつけて」

 香り雪に見送られて、カラーはまた空白の景色に舞い戻った。

 さっきと同じように周囲を見渡すけれど、やはり変わったものは見付からない。ただ目の前には【珠鈴】の浮かぶ台座があった。

「歌は長くてまた死んじゃいますから、取りあえず歩きながら短い〔詠唱〕を考えましょうか。きっとここがわたしの〔箱庭〕で確か【香雪こうせつ社都しゃと】という街に繋がってるんですよねー」

[そうだね。最初の街へ向かうのはRPGの基本]

[ごー、ごー]

[ここに突っ立っててもしゃーないしな]

 視聴者からの後押しも受けて、カラーはのんびりと歩き出した。

 行く宛もなく、周りは真っ白で、散歩にしたって殺風景に過ぎる。

[ここ、敵出るん?]

[んー。ねぇ、ママ、この動画ネタバレコメントありなしどっち?]

「ネタバレですかー? あ、そっか、サービス始まったのが午前中だから、もうプレイされてる方もいるんですねー。どうしましょうかー?」

 カラーは配信の同接をなるべく多くするために夜八時からプレイ実況を始めている。ゲームスタートから半日も過ぎていれば、廃人達はそれなりに先まで進んでいるだろう。

 ゆっくりと歩いているカラーが最前線に追い付くとはとても思えない。このゲームの実況も毎日行うつもりでもないし、実況しない日にプレイする気もそんなにない。

[ネタバレありにすると、カラーさん検証にならない疑惑]

[【俺は初心者プレイを見に来たんだ】せっかく何も知らないでプレイしてるんだから、そのままの姿を応援したいと思うのは俺だけか?【仲間はいると信じてる】]

[たしかし]

「なんだか、ネタバレはしないで貰った方が良さそうですねー」

 カラーが視聴者の意向を汲み取ってネタバレ禁止を決定する。早々に手詰まりにならないか心配する声もあるが、そこは上手くコメントで誘導していこうと一致団結を見た。

[てなわけで、誘導その1! 草白さん、自分のステータスをオレラにも見せておくれ。魔術補正値とスキルを知りたい]

「ステータスですか? 今開きますねー。んとー、ステータス、開けー。ん。出てきました」

 たどたどしくステータスを表示させた癖に、カラーはちゃんと出来たと誇らしげな顔をしている。

 歩いていて景色の代わり映えもしないので、配信画面にはステータス表示を拡大して出した。

 キャラメイクで確認済みの〔能力値〕以外のステータスはこんな感じだ。

『草白カラー〔デスペナルティ1〕

〔ルーツ〕 

〔歌手〕レベル1


〔魔術補正値〕

〔効〕0.8

〔拡〕2

〔識〕0.4

〔成〕1

〔償〕0.8


〔スキル〕

〔歌唱〕ランク1

〔音感補正〕ランク1

〔伴奏〕ランク1

〔メドレー〕ランク1

〔ハミング〕ランク1』

[草白さん、そこどや顔するとこちがう]

[ドヤ顔じゃなくてどや顔って感じわかる]

[顔のパーツみんなキリッとしてて知的キャラなのに、表情がふにゃんとしてるの、逆にレベルたけー]

[Vのアヴァター技術もすごい発展してるよね。街中にいてもおかしくないライバーも実際いるし]

[いや、お前らステータスを話題にしろよ]

[だいじょうぶ? これ草白さんの動画ぞ? ゲーム要素いる?]

[いるわwww 実況動画の定義を揺るがすなwww]

 コメント欄がコントになっているのを微笑ましく横目に入れつつも、カラーは自分のステータスをちゃんとチェックしていた。

「今のわたしは、〔魔術〕の効果や燃費が悪い代わりに、広範囲に影響を与えられるみたいですねー。〔スキル〕の方はやっぱりこの〔歌唱〕が一番大事みたいですー」

 〔歌唱〕の内容を確認すると、『〔詠唱〕をメロディに乗せて歌うことで30秒ごとに〔魔術〕が発動する』となっており、〔歌手〕そのものの説明と重複している。これが〔歌手〕の根幹を成す〔スキル〕で間違いないだろう。

「確か、本当なら〔魔術〕は〔詠唱〕が終わってから発動するはずなんですけど、さっき歌の途中で発動したのは〔歌唱〕の効果だったんですねー」

[発動っていうか、発動失敗っていうか]

[自爆って言うか]

[これ、ある程度長い〔詠唱〕じゃないと意味ないな。ちょっと高レベル向き?]

[そもそも歌って戦うのがプレイヤースキル高くないと厳しいしな。玄人好みではありそう]

 他の〔スキル〕も〔歌唱〕に付随する効果が目立つ。

 歌の音程をシステムアシストしてくれる〔音感補正〕は、システムアシストを切ると〔効〕の〔魔術補正値〕を1に変えて実質的な数値上昇になっていて、逆に〔伴奏〕は〔歌唱〕に合わせて伴奏が流れるだけという雰囲気作りのための効果しかない。

 二つの〔魔術〕を繋げて〔歌唱〕出来る〔メドレー〕、〔ハミング〕で〔MP〕を回復する、この二つの〔スキル〕は有用そうに見える。

[だがしかし、〔デスペナルティ〕中は〔スキル〕封印である]

[ざんねん]

「仕方ないですねー。じょぶじょぶ」

[じょぶじょぶいただきました]

[でも、草白さんあんまりじょぶじょぶじゃないよ]

[じょぶじょぶってなに?]

[だいじょうぶの意味の草白語]

[おけ。りかい]

 何が大丈夫じゃないかと言うと、歩いて雑談しているばかりで新しい〔詠唱〕を全く考えていないところだと思われる。

 こんな準備出来ていない状況で敵が来たらどうするのだろうか。

「あ、何かいましたねー」

 そしてこんな時にカラーは何かを見付けてしまった。

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