第4話 居場所①

柊木伊弦


そうくんがこちらに向かって小説を投げつけてきた。

とっさに手を伸ばす。

掴んだ、と思ったが僕の手をすり抜けて勢いよく絵にぶつかって落ちた。


数秒間の沈黙が訪れた。


僕の左手からは血が出ていた。ふと小説に目をやると絵の具で汚れていた。


「汚れちゃったね…」


「るっせんだよっっ!!!!」


彼の目は怒りで満ちていた。

僕は小説を持ち上げた。随分と読み込まれていた。すると、そうくんがドカドカと足音をならしながらこちらへ歩いてきた。


「返せっ!!!!!!」


そう行って雑に僕の手から小説を取り上げた。と思ったら突然ピクリとも動かなくなった。


そうくんの目は、その目は、目の前にある絵だけを見ていた。まるで時間が止まったかのように。


「この絵、お前が描いたの…?」


「そうだよ。」


真っ暗な深海に沈む鯨の死体。それに群がる小魚たち。気味の悪い絵だ。


「気持ち悪。」


えっ…、予想内といえばそうだが少しショックだった。


「気持ち悪いくらいこの絵に惹かれる…」


え…???褒めてくれたのか?


「ありがと…う?」


「お前さ、名前何ていうの?」


「柊木伊弦」


「いつる…、そっか」


彼の目に怒りは無くなっていた。そして一言こう言った。


「伊弦、さっきはごめん。」



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