幕間Ⅱ
Ⅰ
時は遡り、真たちが屋上へ向かった頃。すれ違う形で校庭にやってきた男がいた。
「やぁ、ずいぶんボロボロになったね。デュラ」
ニヤけ面で見下ろしてくるのは、レーヴァンだった。
視線だけ向けたデュラだが、すぐに興味を失ったように目を閉じた。
「あの時に言ったとおり、君は娘に止められた」
「いや、少々違ったな。あの駄犬なくして、俺は止められなかっただろう」
「犬崎くんもイオがきっかけでボクらの仲間になった。ま、キミが駄犬と呼び可愛がって鍛えた事が仇となったね」
デュラは「ふん」と鼻を鳴らし、上半身を起こした。すると、目の前に手を差し出される。レーヴァンの手だ。
それをパチンと払い、自力で立ち上がる。
「屋上に設置した絶対正義は直に壊されるだろう。そうなれば今まで洗脳してきた人員達は元に戻る。組織は潰れ、貴様らの勝ちという事だ」
「うんうん。じゃあ約束を果たそうか」
「約束だと?」
「ボクらが勝ったら、命令を一つ聞くって約束だろ」
レーヴァンと袂を分かったあの時、確かに言っていたか。デュラは思い出すと舌打ちで応え、内容を促す。
「君は大きな過ちを犯した。だから、償いのために世界中を回って人助けをしてもらうよ」
「なんだと?」
「ボク達の活動方針を忘れたのかい? グレイスターは困っている人を助けるために建てた組織じゃないか。ちなみにこれは命令だから、拒否権はないよ」
そこで初めて視線が合った。
彼は本気でそう言っていると理解し、デュラは睨み付ける。
「俺はグレイスターなどとうに辞めている。それに今更、誰かを助ける資格などない」
「ボクはそれを受理した覚えは無いし、助けるのに資格どうこう要らないだろ」
「……正義を盲信し、人を殺してきた」
「君が殺したのはイナスを殺した犯人だけって知ってるよ。デュラ、ボクは聖人でもなんでもない。妻を殺した奴は憎いし、もし今も生きていたなら……きっとボクが直接殺している。正直、仇を討ってくれて嬉しい部分は少しある……つまり、君はボクのヒーローなんだよ」
一歩後ずさり、「それでも」と首を振るデュラ。
受け入れる様子が無い彼に対し、レーヴァンは視線を校舎へと向けた。
「イオは君になんて言ったんだい? あの子の事だから、一緒に反省しようとかだろうけど」
その通りだった。
無言は肯定だよ、とレーヴァンは続ける。
「ボクが約束の件を出さなかったら、君はどうやってイオの言葉を実行する気だった? しかるべき機関に捕まり、塀の中で猛省かい? 悪いけど、ボクもイオもそれは納得しないよ」
罪を犯したなら捕らわれるべきだと思うが、今回の主犯はデュラだと当事者以外は知らない。操られていた者も記憶を失い、自首でもしなければ捕まりはしないだろう。
自首したとしても、証拠云々でまず正気を疑われる。
それならばレーヴァンの言った内容を受け入れ、贖罪をした方がいいという考えになってくる。
「一時は歪み、間違った道に進んだけれど、イオや犬崎くん達が止めた。その道の先は無くなったんだ。ならもう一度正しい道を歩まないか? 後戻りは無理だが、枝分かれて新しく出来た道があるはずだよ」
隣まで寄ってきた彼は握手を求めている。
デュラはその手を見つめ――
「今の俺に、誰かのためという想いは過ぎたモノ。なれば、まずは贖罪のため……自分のために誰かを助けるとする」
今度は手を取り、握りしめる。
友と交わした握手は久しぶりだ、と感慨に耽るデュラ。
「はぁ……やっとかー、ほんと君って遠回りで面倒くさいよね」
「たわけ。貴様も親バカは相変わらずだろうが」
こうした言い争いも懐かしいものだと感じ、彼らは並んで学校から出て行った。
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