Ⅲ
翌日の放課後。配布された二つ折りの携帯電話を開き、メールボックスを確認すると『出撃要請』という件名で届いていた。
昨日のように倉庫から地下へ向かうと、『ブリーフィングルームはコチラ』とご丁寧にも案内看板があった。
目的の部屋には、昨日と違って全身黒タイツの人物が大勢いる。
その中の一人が真に気付いたのか、近づいて手を挙げてきた。
「よぉ。新入り」
「はぁ……どうも」
馴れ馴れしく挨拶され、つい腰が引けてしまった。
「なんでぇ、俺の事を忘れたのか? せっかく場所と合言葉を教えてやったのに」
「場所と合言葉……え、警備員さん?」
教えてやった。という言葉で、昨日の警備員なのかと真は驚いた。
「おうよ。普段は警備員だが、こうして出撃がある時は下っ端やらせてもらってんだ。意外と多いんだぜ? 掛け持ちで下っ端してる奴」
警備員と悪の下っ端の掛け持ちはどうなのか、と思ったが真は口にせず辺りを見渡す。
自分以外の全員が黒タイツを着ている。おそらく下っ端の正装なのだろう。
「あの、みんなが来てるソレ、どこで?」
「ん? 昨日の面接が終わった時点でボスから貰ってるはずだが」
そう言われても、昨日貰ったのは連絡に使う携帯電話のみ。それ以外は何も、と思った所で胸ポケットに入れていた携帯が震えた。
知らない番号が表示されているのを少し怪訝に思いながら通話に出る。
『あ、犬崎さんすか? 昨日パパが制服を渡し忘れたようなので、すみませんが研究室まで取りに来て貰えませんっすかね』
「あ、はい」
『よろしくっすー』
と、通話が切れた。知らない女の子の声だった。
ツーッ、ツーッ。と切れたままの携帯を眺めたいた真に、警備員の下っ端が声を掛けてくる。
「どうした新入り」
「……研究室ってどこに?」
すると、下っ端は驚愕したように目を見開いた。
「おいおい。研究室ってこたぁ、あの嬢ちゃんに呼ばれたのかよ」
その様子になんだかヤバい雰囲気を感じた真。
「え。なんかマズい感じです?」
「嬢ちゃんはボスの娘だからよ。扱いに困るんだ。いいか? 変な事はするなよ、即クビになるぞ……まぁ嬢ちゃんの方が変な事してきそうだが」
通話中に出てきた『パパ』とはレーヴァンの事だったのかと納得したが、驚きもあった。
「つうか娘いたんだ」
悪の組織にも家族はいるんだな、と妙な感覚を抱きながらも研究室の場所を聞いて向かう。
どうやら昨日のトレーニングルームの隣みたいだ。
「ここ、だよな?」
真が首を傾げる理由は、教えてもらった研究室の入り口に『イオのけんきゅーしつ(はーと)』と独特な感性で書かれているドアプレートが掛けられていたから。
しかしハッキリ研究室とあるので間違いないだろうと思い、真は意を決して開けた。
「すんませーん。あのダサ――じゃねぇ、制服を受け取りに来ましたー」
「お? 思いのほか早かったっすね。ちょっち待っててくださいっす」
真を出迎えたのは、女の子。それは通話の声からも『娘』という単語からも分かっていた。
髪色は真っ白であり、肌もきめ細かく美しい。恐らく美少女という部類だろう。しかしその髪はボサボサと乱れ、目の隈も深い。
著ている白衣はくたびれており、加えて頭に乗せている大きなぐるぐるレンズのメガネの影響でダサさが全面に出ている。
これらのせいで美少女という印象は薄れていた。
そうして冷静に目の前の情報を呑み込もうとした真だが、不可解な事があった。
「なんで……下着姿なんだ」
「ほえ? 今から着替えるところだからっすけど。というかレディの部屋にノックなしに入るのはどうかと思うっすよ――って、えっ、犬崎さんッ!?」
まさに正論。だが研究室=女子の部屋だと思わないし、さっきの通話でそれを言って欲しかった。
そんな反論を心の中で叫んだ真は、鼻血を吹き出して倒れた。
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