第403話 ミサイルを発射した者たち



Side ???


通信機械の詰まった部屋の真ん中で、モニターを見ながら報告を聞く男がいる。

どこか威厳のある雰囲気の男だが、外見は若く二十代にしか見えなかった。


『……こちら、観測地点N9。

目標の城塞都市中心での核爆発を確認しました』


モニターに映し出された男は、サングラスに防護服を着ている。

地球のどこかの軍用の物らしく、色は地味だ。


「光は見ていないだろうな?」

『もちろんです将軍。

ザザー、ザー……、衝撃……と、……』


報告を聞いていたが、急にモニターにノイズが入り通信状況が悪くなる。

そして、急にモニターが真っ黒になった。


「? ……切れたか。

原因は分かるか?」


通信で報告を受けていた将軍と呼ばれた男は、通信が切れたために操作していた通信士に声をかける。


「おそらくですが、観測地点に核爆発の衝撃波が到達したことによる通信障害ではないかと……」

「フム。ならば、後で通信を試みよ」

「ハッ!」


将軍と呼ばれた男は、今まで座っていた椅子から立ち上がり部屋を出ていった。

部屋を出た男は、廊下を歩いて階段を上る。


そして、突き当りの扉を開けて外へ出ると、そこは山の中腹だった。


男は、扉から出て来てそのまま歩いていくと、右側を歩きながら見る。

すると、そこにはロケットの発射台がそびえ立っていた……。


足を止め、じっとロケット発射台を見上げていると、強い風が吹き抜けていった……。


「……ここまで風がくるか。

陛下の命令とはいえ、核ミサイルを発射してしまうとはな……」


発射台を見上げていた将軍と呼ばれた男は、視線を下げて自分の手を見た。

すると、自分の手が震えている。


「……将軍と呼ばれるような地位の者が、大量破壊兵器である核ミサイルの発射スイッチを押すだけで、こうも震えるとはな……」


目を瞑り、手のひらを握りこむ。

するとそこへ、通信士の男が扉を開けて将軍と呼ばれる男に声をかける。


「将軍! 通信が回復しました!」

「……分かった! 今戻る!」


通信士が扉の中に入ると、将軍と呼ばれた男は再び発射台を見上げた。


「……陛下、これでよかったのでしょうか……」


そう呟くと、歩いて通信士が出てきた扉の中へ入っていった……。




▽    ▽    ▽




Side ???


ある王国の王都にある立派な城の中にある謁見の間、そこにある玉座に一人の男が座っている。


その目の前には、跪いて首を垂れる兵士。


「陛下。

先ほど、三国の機械化部隊が攻めていた城塞都市に向けて、我が国の核ミサイルを発射し核爆発を観測いたしました」

「……そうか」


国王は、暗い表情で兵士の報告に返事をした。


「陛下、お喜びください。

これで、我が国は例の三国を出し抜いたのでございますぞ?」

「ロジス……」


暗い表情の国王に、満面の笑みで声をかけたのはこの国の貴族の一人。

国王よりも下の位置に控えていた、ロジス・ボルドーラン公爵だ。

国王との関係は、義理の弟となる。


「アーラガブ王国に、一泡吹かせることができたのです。

今は亡き姉も、天国で喜んでいると思います」

「……だがな…」

「陛下! 気に病むことなどありません!

奴らは! アーラガブの奴らは……」

「分かった、ロジス。

もう何も言うな……」


国王は、ロジスがここまで憎しみをむき出しにする理由を知っている。

ロジスの姉で国王の第二王妃は、アーラガブ王国へ親善大使として何度も赴いていたが、戦争が始まると王子王女たちの継承権争いに巻き込まれ、とくに仲の良かった王女の一人と一緒に暗殺されていた。


そしてアーラガブ王国は、第二王妃の遺体の返還に応じず、何の賠償や謝罪もなく闇に葬ろうとしたのだ。

だがそのことを突き止めたのが、ここで憎しみをむき出しにしている弟のロジス公爵だった。


姉の失踪と発表されたことが信じられず、独自に動いて調査。

そして王女と一緒に継承権争いに巻き込まれ、暗殺されたことが分かった。


一応、我が国の公爵という立場を考えていたようだが、地球という異世界からの連中と一緒になってこの報復を考えていたのだろう。


まあ、国王も第二王妃の件の対応には腸が煮えくり返る思いはしていた。

していたが、国王として軽はずみな行動はできずにいたのだ……。


「陛下、二発目三発目の準備もできております。

奴らの頭上に、太陽を出現させてはどうでしょうか?」

「それはならんぞ!!

ロジス公爵、一時の感情で軽はずみな行動をしてはならない!

……いいな?」

「……分かり、ました……」


苦虫をかみつぶしたような表情で、頭を下げる公爵。

侯爵の悔しい思いは、国王にも手に取るように分かっていた。


国王自身も、国王という立場が無ければ公爵の提案にのっただろう。

だが、国を犠牲にして復讐をすることは許されない。

悔しい思いは、国王も同じなのだ……。




▽    ▽    ▽




Side 五十嵐颯太


コアルームで、ミアとともに映しだされる映像を見ていた。

現在、異世界で起きていることをそれぞれの視点で映しだしたものだったが……。


「何これ……。

向こうの異世界では、核戦争やってんのか?」

「見たいですね……」

「いやミア、見たいですねじゃないぞ?

ファンタジーな異世界で、核戦争やってんだぞ?

核の威力も問題だが、放射能の問題分かって戦争しているのか?!」


ミアの方を見ると、ミアは顔を横に何度か振る。

どうやら異世界の連中は、放射能の恐ろしさを分かっていないらしい。


旧帝国の砦で、あれだけのことが起きたっていうのに……。







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