第400話 目的の人物は
Side ???
建物の地下へ続く階段を降り、地下にある廊下を静かに進む。
すると、光が漏れる扉が右側にあり、耳を扉にあてて中の声を確認。
「……隊長、人がいるようです」
「一人か?」
「いえ、何人もいるようです」
「ならば、目的の場所じゃないな。
この部屋は無視して、先に進む。
音をたてずに通過するぞ」
「了解」
俺たちの部隊は、静かに廊下を移動していく。
光りが漏れている扉を静かに通り過ぎると、再び廊下が続いていく。
ゆっくりと進んで行くと、廊下の行き止まりに到着した。
「隊長、行き止まりです」
「周りを確認しろ。
何かあるはずだ」
「分かりました」
隊の全員で行き止まりを、丹念に調べる。
すると、隠しスイッチを見つけた。
「隊長、これは……」
「押すぞ」
カチッとスイッチを押すと、ガコッという音がして行き止まりの壁が少し開いた。
隠し通路か、隠し部屋か。
壁の隙間に手を入れて、壁を手前に引く。
どうやらその壁は、ノブの無い扉になっているようで通路が続いていた。
「……進むぞ」
「了解」
俺たちの隊は、続いている廊下をさらに進む。
家の廊下のような通路から石でできた、いかにも地下という通路に変わる。
この通路だと、どう歩いても足音がしそうなので俺たちは急いで走り抜けることにした。
少し走ると、左に牢屋のような鉄格子が現れる。
そして、その中に一人の女性が椅子に座っていた。
『……誰?』
「アーラガフ王国の侵入部隊です。
本部から、この町に潜入してあなたに会えという命令がありました」
『アーラガフ王国……。
まだ、存在していたんですね……』
「あの……」
『失礼しました。
私は、アーガレフ王国元第一王女シルディナ・アーガレフです』
「……元?」
そう俺が聞き返すと、シルディナは椅子から立ち上がり、俺たちの方へ近づいてきた。
そして、鉄格子越しにシルディナの顔を見ると耳が長く尖っている。
「?! エルフ!」
そう言うと、シルディナはフッと笑った。
『そうです。
私は、現アーガレフ国王と血が繋がっていません。
私の母が国王と結婚したときは、すでに私はお腹の中にいたのです。
私が生まれてから、私の容姿を見た国王は烈火のごとく怒り私を王国から追放しました』
「そんな……」
『追放後、私は別の国の小さな村の夫婦のもとに託されました。
その夫婦は、私を実の娘のように育ててはくれなかった。
この容姿です。
他の村の者に気づかれないように、家から出ることを禁止されひっそりと育ちました』
「……それがなぜ、このような場所に……」
『その育った村が、この場所です。
今は町になっているようですが……』
「何と……」
追放された、シルディナを育てた夫婦のいた村がこの町。
こんなに変わったのか……。
『村だったころは、屋根裏に押し込まれていました。
町に変わり始めた頃、家を建て直すとかで地下に移動させられました。
そして、町が大きくなれば私の身柄は夫婦から町の代表者に。
町の代表者は、私の生まれを聞いてこの地下牢に閉じ込めてしまったのです』
「あの、一つ聞きたいんですが、何故こんな場所にいるんです?」
『地下牢に閉じ込められた理由は、代表者から聞かされました。
夫婦から町の代表者へ差し出された頃に、アーガレフ王国から召喚状が届いたからです』
「召喚状?」
『ええ、何でもアーガレフ王国の世継ぎが全員亡くなったとか……』
……そうか!
そう言えば、アーガレフ王国が武力をもって支配地域を広げたとき、王子や王女が総指揮官として戦場に送られたとか聞いたな。
戦争で勝利した後、占領した領地で演説するためとか戦場を経験させるためとかいろいろ言われていたが、結局後継者争いが激化して、戦場で暗殺されたりして全員亡くなったんだよな。
なるほど、それでシルディナ様を今更ながら王女として迎えて、王国が薦める王子と婚約させてしまおうというところか。
「経緯や思惑はともかく、シルディナ様はアーガレフ王国には無くてはならないお方。
私たちとともに、ここから脱出いたしましょう」
『……』
「お願いいたします」
俺が頭を下げて頼むと、他の隊員たちも頭を下げる。
その様子を見て、シルディナ様はため息を吐く。
『私に選択の余地はないのですね。
そして、私自身のことも……』
「……」
『分かりました。
皆様と一緒に脱出したしましょう』
「ありがとうございます!」
隊員たちが、鉄格子を取りはずす作業に入った所で、俺は本部に連絡を入れる。
「こちらスネーク、目的の人物と接触した。
これより、ともに脱出する」
『……本部、了解。
シルディナ様はご無事か?』
「少しやせているが、しっかりと受け答えができている。
ただ、話される言語が我々のものと違うようだ。
一応、通じるように翻訳魔道具なるものを使われているようだが……」
『……通じるなら問題ない。
全員の脱出を願うが、最悪姫様だけでも脱出させるように』
「……了解。全力を尽くす」
本部との通信が切れる。
最悪、シルディナ様だけでも脱出させろ、か。
王国側で捨てておいて、よく言う。
俺は、鉄格子を解体し、中から連れ出されるシルディナ様を見て絶対に隊の全員でこの町を脱出することを胸に誓った。
「ラック、姫様をおんぶしてくれ。
疲れてきたら、他の物に交代だ」
「了解です」
「よし、この町から脱出するぞ。
よろしいですね?」
『お願いします!』
姫の足が細すぎることに気づき、あまり歩きなれていないと思った。
そこで、隊員に負ぶって運ぶように指示を出す。
そして、出発する際にシルディナに確認すると、頷いて頼まれた。
さあ! 町から脱出だ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます